season's cake 059 1/1




『スプーン』


向かいの席で 彼女は

片手で足りる程度の打ち合わせは
どこかぎこちなさを残したまま
互いに忙しい日々だから 食事を兼ねて なんて
無理に誘い出すより 口実になっていい

とても簡単に
その指が 唇が触れる まろやかな銀色
君は知らない
その仕草が 視線を引きつけることを
この胸が 僅かな嫉妬に燻ることを

向かいの席で 僕は
硬い言葉をペンで書きとめながら
見蕩れていたことなど 微塵も感じさせないように

僕が少し黙れば 君が言葉を探す
そうやって 僕を気にかけるように 誘う
君と同じ銀色のスプーンで
静かに珈琲をかき混ぜて 何気なさを装って 誘う
今はまだ 無意識のはずの視線に
もう少し 僕を追わせてみたくて

君が珈琲に落とした クリームのように
ゆっくり じわり 沁みこんで
やがてその心を 染めかえる
僕の心を 君が染めたように




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