season's cake 063 1/1




『スペアキィ』


手の平でぬるく熱を持つ、ふたつの金属片。
それは、二度と使われることのない――ふたりの、合鍵。

いくつもの傷で輝きを鈍くしたそれを、手の中に握りこむと、
チャリッと、小さく擦れる音が部屋に響く。
もう何回使ったかなんて覚えていないけれど、
思い出なら、たくさんたくさん、この胸の中に。

僕の方のスペアキィには、
一度、酷く君を傷つけた時に、投げつけられて歪んだ跡。
歪んだ鍵は直せても、君につけた傷を治せる錬金術師はいない。

あの時、それでも手放さなかった君のためのスペアキィは、
今になって、僕の手元に戻ってきた。

「ねぇ、スタンドの位置ってこの辺でいいよね」

新しい寝室から、君の声。
僕はポケットの中に鍵をしまって、呼ばれるままにドアをくぐる。
段ボールに囲まれて腕まくりの君に、あの日の涙の影は見えない。

「もうちょっと右?」
「…ん」

スペアキィは傷が付いて輝きを失うけれど、
君と僕は、傷つけあって、だんだんだんだん強くなった。

「遊んでないで手伝ってよ」
「はいはい」
君なんて、いつの間にか僕を上手く操縦している。
僕はといえば、そんな現在がまんざらでもなかったりする自分自身に苦笑。

言われるがままに未来へ繋がる片付けに参戦すると、
ポケットの中で、思い出がチャリッと音を立てた。

君が手に入れた、僕を上手に扱う鍵。
僕が手に入れた、君の待つ家に帰る鍵。

もうスペアキィは要らない。




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