season's cake 078 1/1
『さよならの温度』
頭の重みをあずけた肩が、小さく「おやすみ」と囁くのを聞いた。
私は目を閉じたまま、頷きもせずに夢の訪れを待つ。
『別れる時には、それまでがまるで夢のように』
はじめから続くはずがないとわかっていた哀れな恋でも、せめて最後だけは美しくと決めていた。
はじめから夢であったのなら、惜しまずに済む。
嘆かずに済む。
彼を探して彷徨わずに済む。
――おやすみ、よい夢を。
次に目を開けた時、彼の姿はもうないだろう。
写真立てに、寝室に、玄関に、
洗面台の棚の中に、ごみ箱の中に、
気配ひとつ、残しもせずに。
足音ひとつ、思い出させずに。
緩やかに落ちゆく眠りの傍で、
さよならの温度だけが、この頬をあたためている。
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