season's cake 080 1/1
『薫』
飲み終えたコーヒーのカップを捨てに、君が席を立った。
僕の分の紙屑まで持っていってしまうのは、几帳面な君の癖だ。
ダストスペースの前で手際よく分別する後ろ姿はいつもと変わらないのに、いつもと違うことがひとつ。
――君はもう、この席には戻ってこない。
君が紙屑と一緒に捨てたのは、僕の未練。
飲み終えたコーヒーの熱など、次の行く先を定めた足には何の枷にもならなかったようだ。
踵を反してドアをくぐる姿を見たくなくて、僕はテーブルに目線を落とした。
砂糖を入れずに苦いままのコーヒーはすっかり冷めてしまっていて、ただ終わった恋の薫りだけを微かに漂わせていた。
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