showcase 007 1/3
『nail』
植木鉢に水をやる。
この部屋に来て、私が先ずやる作業がそれ。
じょうろなんていう気のきいたものはこの部屋にはないので、何の変哲もないガラスのコップで水遣りをする。
この前来たのって…いつだったっけ?
そう思わせる、根元に近い葉先が変色しはじめたパキラと、萎びてきたアジアンタム。
世話をしてくれるはずの人は、とんでもなく忘れん坊だ。
「枯れちゃダメー」
わずかに埃を被った葉っぱを拭って綺麗にしたら、ベランダ側に頑張って移動。
大きな鉢を相手に覚束ない手つきの私を、見かねた彼が手伝ってくれた。
「へっぴり腰」
「ちゃんと太陽も当ててあげなきゃダメだよ」
「そりゃスマン」
生き物なんだからね、世話してくれる人がちゃんとしてないと死んじゃうんだよ。
なんて。
忙しい時間をぬってやっと会えたとこなのに、いきなりのお説教モードってどうなんだろう。
うーん…私ってば、この観葉植物みたいに、構ってもらうのが足りなくて拗ねちゃってるんだろうか。
なんかヤだな。子どもみたいで。
「ひなたぼっこ?」
鉢植えの間にぺたりと座りこんでいたら、彼がそう問いかけてきた。
「ううん、観葉植物の気持ちになってみようかと思って」
「…水をくれ、ってこと?」
「できればカフェオレがいいかな?」
「冷蔵庫の牛乳…賞味期限大丈夫だったかな…」
「ええとじゃぁ、ブラックコーヒーでいいです。この際インスタントでも文句は言いません」
「そうしてくださると助かります」
彼はふふっと小さく笑って、キッチンへ立って行った。
いつもの遣り取りに、私はなんだかほっとする。
正直なとこ、いつも牛乳の賞味期限が怪しいのはどうにかして欲しいんだけどね。
やがてシュンシュンとケトルが鳴いて、マグカップを持った彼が戻ってきた。
「どうぞ、お客様」
「ありがとうございまーす」
ブラックで飲むときの私の分は、少し薄めのアメリカン。
苦いのはちょっと苦手だと、ちゃんと覚えてくれてるのが嬉しい。
コーヒーを一口すすってまたキッチンの方へ消えた彼は、いそいそとゴミ箱をひっぱってきて、元居たソファに陣取った。
何をするんだろうと思って、私はベランダの窓から四つん這いでその足元に擦り寄る。
「アナタは猫ですかい」
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