showcase 007 2/3
「お行儀悪いですよー」なんて言いながらも、私が彼の膝の上に顎を乗っけて見上げたら、彼は「まんざらでもないです」っていう表情をした。
握った手の中から取り出したるは、何て事はない、爪切り。
…なぁんだ。
パチン、パチン。
リズミカルな軽い音が、指先を整えていく。
――そう言えば、爪を切ってるとこなんて初めて見たかも。
「いつも深爪だね。痛くない?」
「だって、引っ掻いて傷つけちゃわないか心配でしょ」
「…何を?」
不思議に思って訊いてみたら、答えになってるんだかなってないんだかよくわからないことを彼が言った。
「それに多分、深爪よりもそっちの方がずっと痛いと思うから」
「…んんん?」
振り向いたら、「なんでもありません」と彼がにっこり笑って、私の髪をくしゃりと撫でた。
せっかく結ったお揃いのポニーテールを、調子に乗った彼に「猫じゃらしー♪」と散々乱して崩される。
ああもう、この大きな猫をどうしてくれよう。
ひとしきり私の頭で遊んだ彼は、今度は右手の爪切りに没頭し始めた。
リズミカル…とは言いがたい音で、パチンパチン。
やっぱり利き手とそうじゃない手とでは、使い勝手が違うらしい。
眉間に皺なんて寄せて難しい顔をしてるとこに、括らずに残されていた髪がはらりとかかる。
ベランダからの光で透けるその横顔が眩しくて、私は知らずに目を細めていた。
「さぁて、せっかくいい天気だから、何処かに出掛けましょうかね?」
「…いいの?」
ごろごろと膝にもたれかかっていたら、突然そんな事を言われてびっくりした。
猫には猫で対抗するしかないと、このまま甘えたおしてしまおうと思っていた矢先の嬉しい提案だ。
「コーヒーを飲んで、そのぐしゃぐしゃな頭を直したら、まぁ適当にブラブラと」
「まったりしたい、まったり」
「じゃぁブラブラまったりと」
「あ、この間、キノコのキッシュが美味しいお店見つけたよ」
「マジでっ!?」
「結構近いんだよ。そこの公園の裏のとこにあるの」
「じゃぁ行き先はそこに決定ということで宜しい?」
「宜しいでーす」
空にしたマグカップをシンクに並べて置いて、私は慌てて身繕い。
先に支度を終えて玄関先で待っていた彼が、ミュールを履く私の手を支えて言った。
「アナタにも太陽を当ててあげなきゃね」
――想いの先が枯れちゃったら、切ないでしょ。
私は片足にだけミュールをひっかけたままで一時停止。
「…ねぇ、すっごい好きって言ってもいい?」
「照れるから止めなさい」
なんでそこ即答かなー。
まぁいいや。
今日はこんなに天気がいい日だから。
爪を研いだ優しくて大きな猫に手を引かれて、午後の散歩を楽しむとしよう。
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