showcase 008 1/2
『Riverside Lovers』
「1年に1度しか逢えないなんてことになったら、別れるから」
7月7日。君とふたりで買い物にやってきたショッピングセンターの、催事場の片隅。
目的だったはずのそれはほとんどウィンドウショッピングで、冷やかすだけ冷やかして散々歩いて成果ゼロ。
ちょっと休憩しようかと提案したらカフェは却下されて、椅子だけが寂しく並んだ催事スペースに座らされた。
…なんか機嫌悪くなってる?
いつものお喋りはどこへやら、沈黙が多くなったふたりの距離を僕はそっと窺う。
明日には撤去されてしまう、子どもから大人までの多種多様な人々の願い事で重く垂れ下がった笹竹を前にして、唐突に君が言った。
――1年に1度しか逢えないなんてことになったら、別れるから。
「…いきなり何の話?」
「だから、私とあなたの話」
短冊を手に、振り向きもしないその返答。
僕は飲み干したばかりのペットボトルのミネラルウォーターの蓋を閉めて、不貞腐れ度全開の横顔を窺う。
1年に1度しか逢えないなら別れるって――何をどうしたらそういう話の運びになるのさ?
指の先にサラサラと流れる文字は、僕の位置からは見えない。
ええ…っと。この人、全然僕のところを見ないし。
察するに、その不機嫌の原因は僕にあるわけですか。と言うか完璧に僕が悪い、って言ってるようなもんだね。
……。
ひょっとして先月1回しか逢えなかったのを怒ってる?
いや、それとも先々月の1回のことかもしれない。
それを言うなら、今日寝坊して約束の時間に遅れたこととか…。
――違うな、どれかひとつじゃなくて全部か。
「ごめんなさい」
小さな不満だって重なれば大きくなるのは当たり前だし、ましてや今回は、寂しがりの君にとってはひとつひとつがレッドカードのレベル。そりゃあ怒られて当然だろう。
謝る僕に見えない位置に短冊を吊るして、君はブツブツと独り言っぽく文句を連ねだした。
1年に1度しか逢えないのに、そんな時に見ず知らずの他人の願いを叶えてあげなきゃなんないだとか。
1年に1度しか逢えないのに、ふたりでいる間中ずっと別れの時間までをカウントダウンしてなきゃなんなかったりだとか。
1年に1度しか逢えないのに、それから先もずっと1年に1度きりしか逢えないって宣告されてたりだとか。
声しか聞かせてくれない人を想って、切なさに押しつぶされて、死にそうに毎日を生きるなんて。そんなの絶対。
「そんなの嫌」
「はい。ごめんなさい」
多分、君の中では「1年に1回」と「1月に1回」はほぼ同義なんだろう。
散々連ねて振り向いた顔は、僕が「ぶー」と呼ぶ可愛いんだけど可愛くない顔になっていた。
「そんなんだったら別れてやる」
「本当にごめんなさい」
「……」
「僕が悪かった」
だから機嫌直して。
「別れるなんて言わないで。ね?」
少し屈んで目線を同じ高さに合わせる。君がよく「好きだ」と言ってくれる真面目な顔で、目に力を入れて、真摯に君を見つめる。
…あれ。
いつもなら僕の意図するところに結構流されてくれるのに、今日の君はやけに頑なだ。
「…………うん」
暫くそうやって粘っていたら、ようやく君が頷いた。
ほっと肩の力を抜こうとしたところで、でも、と君が続ける。
「今日は泊まれないんだからね」
そう言う君の声にも横顔にも、まだ「不機嫌」って書いてある。…もちろん比喩だけど。
恋人という関係もさることながら、君は感情が表情に直結している人だから、今どう思っているかなんてすぐにわかるんだけど。
――ああ、そういうこと。
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