showcase 008 2/2




 君が怒ってるのは僕のことで、自分のことで。つまりは、天上の彼らを遮るのは物理学的な距離で、僕らを遮るのは生物学的な距離というわけ。
 ちょっと下衆なことを言うと、久々に逢えたんで燃え上がりそうな期待が体調のせいで駄目になりました、ってことで。
 …いや別に、そういうことばっかり考えて一緒にいるんじゃないんだけどね?
 なんて考えて黙っていたら、君が泣きそうな目で僕を見た。
「泊まれないんだもん。だからもう帰るもん」

 ……。
 もう帰るって、そんな。
 今日はデートらしいデートもまだしてないし、何よりまだ1回も笑顔を見てないんですけど。

 君は絶妙な上目遣いで僕を見つめる。
 …ねぇ、その涙目はいつもの疲れ目なの、それとも狙ってるの。
 眉なんて寄せて唇尖らせちゃって。
 ああもう、駄目だって言ってるそばから誘ってるようにしか見えないんだけど。
 なんなのさ。この卑怯者…

 人目がなければ噛み付いてやるとこだけど、それをぐっと堪えて僕は余裕の表情を作る。ヨユウノヒョウジョウ。これが結構難しいんだな。
 顔に出したら余計に怒られるぞ。落ち着け、俺。この小悪魔は一度意地を張り始めると手強いから――
「そんな顔しないの」
「もともとこんな顔だもん」
 さらに「ぶーたれた」顔で君が言う。眉が完璧に拗ねている。
「…あんまりそんな顔してると、ここでキスしちゃうよ?」
「…なんでそういう方向に持ってくの」
「いやほら、それはキスの威力で可愛い顔にする自信があるから」
「バ…バカッ!!」
 ほら、君はとたんに真っ赤になって、ゆでだこみたいな可愛い顔になった。
「降参?」
「…不本意ですが、降参」
 ふいっと横を向いて、小さな声が白旗を揚げた。
 やったね。
「で、さっきの短冊には何て書いたの?」
「…『せめてデートは月2回』」
「謙虚だねぇ」
 …指輪買ってとか言われるのかと思った。
「モノより想い出なの」
「あれ、顔に出てた?」
「誤魔化しの意味が混じってるようなのは要らない。そんなの貰っても捨ててやる」
 そう言って僕の手から空のペットボトルを奪うと、君はゴミ箱に寄って行って、ガコンとそれを放り込んだ。
 モノより思い出。
 それは星に願いをなんていう不確かさより、現実に君の傍にいる僕が叶えなきゃいけないことだ。益々このまま帰すわけにはいかない。
「とりあえず今夜は、星を見ながら一晩中ドライブなんてどう?」
 夜はどっちかの家に行こうと思って特に予定なんて立ててなかったから、急遽の提案。
「…途中で寝ちゃっても許してくれるなら、いいよ」
「それすごく僕がつまんないんだけど」
「あと、ひとりだけ感動して泣いちゃわないなら、いいよ」
「なんで。一緒に泣けばいいじゃん」
「やだ。パンダ目で朝帰りなんて格好悪いから、泣くのはやめとく」
 それでも差し出された手が一緒にいたいと言ってくれていたので、僕らはしっかり手を繋いだ。
 駐車場へ歩きながら「ごめんね、こんな男で」と言ったら、君はまだちょっと不貞腐れた顔で「仕方ないよ」と言った。

「「だって好きなんだもん」」

 あ。台詞ハモった。互いで互いを肯定。
 それはなんだかんだ言いながらもふたりの距離がゼロになった瞬間で、嬉しくなった僕は思わず君の頬にキスをして、「こんなとこで何してんの!」と怒られた。
 ついでに肩に平手も飛んできた。痛い。
 …いいじゃんね、別に。減ったりしないし。
 僕はこっそりリベンジを誓う。
 星空の下に連れ去ったら、一足先にいちゃついてる織姫と彦星に見せつけてやる勢いで、「モノより想い出」なキスを仕掛けてやろう。


 待ってるだけなんて性に合わない、アグレッシブな僕ら。
 僕と君がその気になれば、渡れない川なんてない。


 -fin-




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