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『爪痕』


「いてっ…」

 起き上がった彼が、わずかに顔をしかめてそう言った。
 どうしたの、と問い掛けようとして私は固まる。
 ――その原因には心当たりがありすぎた。

 身を捩った彼の背中の両脇に、赤いみみず腫れ。それは先程までの二人を生々しく思い返させて、私をいたたまれなくさせる。

「…どんな感じ?」

 そんな私を知ってか知らずか、背中を向けたままで彼は私に呼び掛けてきた。
「どんな感じ、って?」
「いや、見た目的に」
「…きれいにつけちゃいましてごめんなさい」

 堅い背中に走る赤はあまりに艶めかしくて、正視していることができない。
 染まる頬を自覚しながらブランケットを引き上げて、私はもぞりとその中に隠れた。

「爪切ろうかな…」
「何で」
「だって…」
「いいよ。折角綺麗にしてんのに。勿体ない」

 ブランケットからそこだけ覗いた指先に、ふわりと唇の気配がした。

「痕残されるのは歓迎なんだよね。…自慢だし」
 だってほら――俺の所為でしょ?

「…!?」
 誇らしげな低い声に、私は思わず被っていたものを撥ね除けた。
「な、何言ってんのっ!?」
「うわ真っ赤」
「どうしようこの人恥ずかしいよ、自分で言わないでよ!!」
「やーい図星ー♪」
 嬉しそうに目を細めた、歌うような口調。
 図星も図星でそれ以上反論のできない私を抱きすくめると、耳元で彼が言った。

「俺のこと、『すっごい好き』なんだよね?」

 ――それは、確かめるまでもないこと。
 熱い頬を寄せるのは、彼にだからこそ。
 私は彼の背中に手を回して、頷く代わりに、そこに緩く爪を立てた。


 -fin-


reproduced 【五鍵】
special thanks for ヒロコ




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