showcase 011 2/2
『爪痕』
「いてっ…」
起き上がった彼が、わずかに顔をしかめてそう言った。
どうしたの、と問い掛けようとして私は固まる。
――その原因には心当たりがありすぎた。
身を捩った彼の背中の両脇に、赤いみみず腫れ。それは先程までの二人を生々しく思い返させて、私をいたたまれなくさせる。
「…どんな感じ?」
そんな私を知ってか知らずか、背中を向けたままで彼は私に呼び掛けてきた。
「どんな感じ、って?」
「いや、見た目的に」
「…きれいにつけちゃいましてごめんなさい」
堅い背中に走る赤はあまりに艶めかしくて、正視していることができない。
染まる頬を自覚しながらブランケットを引き上げて、私はもぞりとその中に隠れた。
「爪切ろうかな…」
「何で」
「だって…」
「いいよ。折角綺麗にしてんのに。勿体ない」
ブランケットからそこだけ覗いた指先に、ふわりと唇の気配がした。
「痕残されるのは歓迎なんだよね。…自慢だし」
だってほら――俺の所為でしょ?
「…!?」
誇らしげな低い声に、私は思わず被っていたものを撥ね除けた。
「な、何言ってんのっ!?」
「うわ真っ赤」
「どうしようこの人恥ずかしいよ、自分で言わないでよ!!」
「やーい図星ー♪」
嬉しそうに目を細めた、歌うような口調。
図星も図星でそれ以上反論のできない私を抱きすくめると、耳元で彼が言った。
「俺のこと、『すっごい好き』なんだよね?」
――それは、確かめるまでもないこと。
熱い頬を寄せるのは、彼にだからこそ。
私は彼の背中に手を回して、頷く代わりに、そこに緩く爪を立てた。
-fin-
reproduced 【五鍵】
special thanks for ヒロコ
≪ back
≪ showcase
≪ menu
≪ home