showcase 012 1/2
『時にはこんな日常』
オンナノコというイキモノは、風呂から上がってからが長い。
やれ化粧水だパックだブローだと、ドキドキしながら待っている俺をそっちのけで長い。
俺ってばもしかして忘れられてんじゃないかと思う程、長い。
とーにーかーくー、長い。
「明日は休みだからおいでよ」と電話を受けたのが、今日の夕方の話。
飯を作ってくれると言うので指令メールを頼りに率先して買い出しに行き、ずどーんと重いスーパーの袋を両手に――男手がある時に買い溜める、とは、我が恋人ながらしたたかな女性であるよな、うん――「こんばんは」とお呼ばれして早4時間ほど。
相変わらず美味い飯にお代わりを連発し呆れさせた後は、先に風呂を使わせてもらって、片付けを終えた彼女と入れ代わって、気がつけばそれからまた1時間。
ひとりでTVを見たりだとかには、いい加減飽きてきた。
…ちょいとお嬢さん。
俺がいるのに、長風呂すぎやしませんかい。
いや、綺麗になろうと頑張るのが悪いと言っているわけではないよ。
だがしかし、だがしかしだな。
お互いに明日はオフで、お泊りOKで、つったら期待もするってもんでしょうに。
ほかほかに暖まって緩みきってる頬だとか、同じ石鹸を使っているはずなのに微妙に違う肌の香りだとか、そういう風呂上がり限定のトキメキをだな、頑張って大人しく待ってる俺に、くれたっていいんじゃないのかい?
そんな風に、出し惜しみしなくたっていいんじゃないのかい?
…と、俺は思うわけなんですが。一向に出てきやしないんだよな、これが。
さっきまで脱衣所でガサゴソ音がしていたのが、今度はブオォォォーというドライヤーのそれに変わった。
……。
1時間。
いや、1時間半は待ったよ俺。それなのに、まーだ待たせるつもりかおまえさんは!
――いい加減ね、怒るよ俺も。
「うりゃあー!!」
俺は勢い良く脱衣所のドアを開けた。と言っても、内開きのそれを思いっきり開けると中にいる彼女の後頭部にガツンと一発お見舞いすることになってしまうので、勢いが良いのは俺の掛け声だけなんだがな。
「まだかコラー! いい加減焦れたぞウォリャー!」
「うわびっくりしたぁ」
なんだいその間の抜けた声は。ちっともビックリしてないだろう。
まだほわほわした湯気を纏っていそうな姿の彼女と、鏡越しに目が合う。いやもう、濡れ髪でちょっと首を傾げたとこなんかに俺は内心ガッツポーズ。今すぐ「いただきます」と言いた…い…。
ところだが。
俺は後ろからのそりと手を伸ばして、洗面台から生えているドライヤーのプラグを引き抜いた。
逆の腕は彼女の細い腰に回して、そのまま片手で力任せに、俺の腰に引き寄せて持ち上げ――と言うか、ぶら下げる。
「うわわわわ、何っ!?」
慌てる彼女を落っことさないように腕と腰でしっかり支えて、そのまま廊下へ逆戻り。
「せめて見えるとこでやってくれ」
「わかった、わかったから下ろして…って、ひょっとして寂しかったりした?」
「…人の図星ついてないで、サルは黙ってらっしゃい」
「私ってばサルなんだ…じゃぁあなたはバナナの木?」
「あのな、バナナの木は意外に弱いものなんだぞ。せめてヤシの木にしときなさいよ」
リビングまでたどり着いたので、ヤシの木であるところの俺は、サルをソファにぺいっと放り投げた。
…「うきゃぁ!」とか言うな。可愛いから。
「一応訊いとくけど、俺がいるの忘れてないよな?」
「ごめんね。自分チだとついのんびりしちゃって」
途中で床に落としてしまった少し湿ったタオルを拾い上げて、彼女に渡す。
空になった手をそれでも伸ばし続けていると、彼女が「?」という顔をした。
「【ヘアブローの虎】と呼ばれたこの俺に! そのドライヤーを貸してごらんなさいってんだ!」
「…【髭剃りの虎】じゃないんだ」
「…おまえさんには髭が生えたりしないでしょうが、ねぇ…」
いくらか脱力しながらドライヤーを奪う俺に、彼女が言う。
「え、ブローしてくれるの? できるの?」
「『できるの?』ってな、…やってやるわい!」
上手くいくかは分からんけれども、放っておかれるよりスキンシップってことで許してやる!
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