showcase 014 3/4
営業スマイルなんてする必要性はこれっぽっちもないので、私はさっきからずーっと仏頂面だ。
見られて、いや、睨まれてる男は咥えたお箸をお皿に戻して、大根を頬張った。
ああーそのお大根、味がしみてて美味しいのよねー…なんて、お隣さんの料理の腕に思いを馳せたりしながら、私は変わらずじと目でヤツを睨む。
流石に視線が痛くなったのか、椅子に座ったままヤツはちろりと私を見上げた。
「心配しなくても大人しくしてるって。同じ女に2度も捨てられるのは勘弁だしな」
「お風呂とかお布団とかは貸さないからね」
「あー…せめて毛布は」
「甘えるな。放り出されないだけマシだと思え」
「…はい」
大人しく食事に戻るヤツを放っておいて、さて私はどうしよう、である。
いつの間にかコイツを泊めるのに承諾しちゃってる自分は…この際見なかったことにして。
煙草の臭いとかお酒の臭いとか、そういう“おつきあい”の名残は落としてから寝ちゃいたいんだけど、コイツがいるからにはのんびりお風呂というわけにもいかない。
一応コイツも男だし。以前はそういう仲にあった関係だし。今はどうあれ、隙なんて見せないに限る。
ああでも、この状況で寝れるかといえば、それはそれで……微妙?
どうにもしようがないまま腕を組んで仁王立ちの私に、ヤツは「ゆっくり寝てれば」と言った。
「何かあった時には、番犬くらいの働きはしてやるから」
…そんな事言ったってねぇ。この田舎で「何かあった時」なんて本当に滅多にあることじゃないから、必要ないと思うんだけど。
でも。
ふぅん。
ちっとも成長してないかと思えば、この男、一宿一飯の恩義を返せるくらいには使えるようになったらしい。
……。
…まぁいいや。こうやって考えてる私の時間が勿体ないから、気にするのはやめにして寝よう。
「おやすみー俺の夢見ろよー」
見るかバカ。
「部屋に入ってくるんじゃないわよ」
「へいへい」
さあ、バカは無視して寝よ。アイツは犬。今晩限りの番犬。だから気にしないで寝よ寝よ。
と、思ってたら、翌朝。
「な、俺とヨリ戻す気ない?」
突拍子もない台詞に、私は一瞬目が点になった。寝惚けているわけじゃなく。
「…昨日の殴りどころが悪かったのかしらね? それともバカはもとから?」
昨日の夜と変わらない姿でヤツはソファの上に胡坐をかいて、「俺、今ならだいぶ甲斐性あるし」なんていう台詞を吐いた。
間髪入れずに鼻で笑ってやろうと思ったら、ヤツは唇の端を持ち上げて私に言う。
「やっぱりお前、なんだかんだで情は深いし、寝顔可愛いし。思わずチューしちゃったし」
思わずチュ……な、なにィィィ!?
「あ、一応言っとくわ。ごちそうさま♪」
「!!」
ごちそうさまじゃないっての! 乙女の――いや乙女ってガラじゃないけどまぁいいってことにしといてよ、今はそれどころじゃないから――乙女の寝室に侵入とはいい度胸してんじゃないのアンタ!
「出てけ! 今すぐ!!」
「イテェ!」
私は素晴らしい反射神経でもってヤツを殴りつけた。ソファから転げて「この際乱暴者なとこには目を瞑るから」とかなんとか言いながら頭を腕でガードするヤツに今度は蹴りをお見舞いして、とにかく力づく。
バタバタと玄関から外に追い出して、取り残された靴を放り投げてやって、ドアに鍵とチェーンをかけて、それから私は玄関に塩まで撒いた。
肩で息をする感覚なんて、ずいぶん久しぶりだわ。…じゃなくて。
ちょっと私ったら、昔の男に優しくするだなんて、墓穴を掘るにも程があるわよ。しかも襲われてどうすんのよ!
しかも「ヨリ戻す気ない?」ってなに!? アンタは私が捨てたのよ!? 冗談もほどほどにしなさいよ! というか、わざわざ寄ってきての話ってそれだったっての!?
引越してやる! 絶対、今すぐにでも引っ越してやる!!
…と、息まいて思ってたんだけど。
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