showcase 014 4/4
結局なんだかんだと押し切られて、ヤツの家に引っ越すハメになったのは……一生の不覚と言っても差し支えないと思う。
「女だからって甘く見るんじゃないわよ」とか言っときながら男を甘く見てた私の、たぶん人生で最大の、一生の不覚だと思う。
だって、相手は一度、私から捨てた男よ?
これから先、否応なくヤツのペースに巻き込まれるのかと思うとついつい自分を励ましてあげたくなるのは、仕方のないことだと思う。
でもそういう時に限ってヤツは寄ってきて、追い討ちをかけるようにこう言うのだ。
「愛されてるってことなんだから、嬉しく思えよバカ」
「バカにバカ呼ばわりされたくないわよこのバカ」
「捻くれてんねぇ」
「煩いバカ!」
「でも愛してるんだけどね」
「くっ…」
そうやって精神的にも物理的にも私の口を封じておいて、やけに近い距離でヤツは唇の端をつりあげる。
私の握った拳は、先手を取られてヤツの大きな手のひらの中。
この状況下で言うのもなんだけど…飼いならされてなんか、絶対にされてやらないんだからねっ。
でもそんな私を見て、ヤツは嬉しそうに笑うのだ。
ただでさえ細い目をさらに細めて、幸せそうに笑うのだ。
「…平凡で穏やかに生きられたらと思ってたのに、人生って、思ってたよりもそんなに甘くないみたい」
不貞腐れる私を見て、ヤツはまた笑った。表情筋がおかしくなっちゃったんじゃないかと思うくらいに、ふんわりと顔が緩む。
「これ以上甘かったら、お前、糖尿病になるよ」
まぁ――俺の甲斐性なんてのはお前のためのものなんだから、そんなの気にしないで楽にしてればいいんじゃね?
そう言って降りてくる唇を拒む手立てが、私にはない。
でもね、この大きな「してやられた感」は、「甘い」の範疇には入らないのよ。
それに私の引越しの理由。どうやって職場に説明しろって言うのよ。私のキャリアとのギャップがありすぎて笑えちゃうじゃないのよ。
このバカ。バカったらバカっ。
開放された手で、ヤツの襟首を掴んで引き寄せる。
触れた唇が離れるまで、私はそんなことを考えていた。
-fin-
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