showcase 017 2/5




 なによ。大人ぶっちゃって。
 お預け状態でほっとかれて悔しいんだけれど、「おまえさんには絶対に分けてやらんのだ」と言われて悪い気はしない――いやむしろ嬉しかったりしたのが余計に悔しくなって、私は、両方を一気に伝える術に出た。
 してやられてるだけだと思わないでね?

「じゃあせめて、味見だけはさせていただきます」
「…はい?」
 残ってないのにどうする気ですかおまえさんは、とでも言いたそうな彼に悟られる前に急接近して――唇に、触れる。
「!?」
「…甘いね」
 ぺろりと触れた唇は、梨の瑞々しさで潤っていた。
「おまえな、…それは立場逆じゃないのか」
「されるだけとか、そんなのは性に合わないからいいんですー」
「……」
 ずいぶん渋い、納得のいかない顔で、彼は「もう1個剥いて食べなさいよ」と小さく言う。
 でも今日は、そういうわけにはいかないのだ。

「1個まるまる食べたらケーキが食べられなくなっちゃうよ」
「…はて。ケーキ?」

 傍若無人の次は天然発言ですか?
 私は呆れて、黙ったまま冷蔵庫を指差した。
 …今日はなんのための合鍵侵入だと思っているのだろう、この人。アレを冷蔵庫に仕込むために決まってるじゃないのねぇ?
 冷蔵庫のところまでひらりと跳んで行った彼は、開けたドアの前にしゃがみこんで、顔半分を中につっこんだ。
 正面には綺麗にラッピングされた箱が、大事に大事に保管されている。箱にセロテープでくっついた小さな紙袋の中身は、言わずと知れた小さくてカラフルな蝋燭たち。
「なぁコレ俺の? 俺の?」
 流石にその意味に気づかないなんてことはないよね、と思っていたら、「見ていい? 見ていい?」なんて変に繰り返して言いながら、彼は許可を出す前に箱を開けてしまった。
 中身を見て目を丸くして「うわぁお」なんて言うものだから、私は私でそれを見て、にんまりと緩む頬を自覚する。
 そりゃあね、びっくりするよね。4号サイズのモンブランなんて、滅多にお目にかかれる代物じゃないし♪

「アナタ、自分が好きなヤツ買ってきたのね」
「だって単純計算で半分は私が食べるわけじゃない?」
「…ほぼ間違いなく今日の主役は俺のはずなんだが、なんだかないがしろにされてる気分。しょぼーん」
「そんなことナイって。おめでとー。お誕生日様ステキー」
「…適当に言ってるカンジはどうかと思うが、そこはむしろテヌキでいいのかもしれん」
「え。折角ケーキとか準備したのに、必要なかったの?」
 私は唇を尖らせる。
 蝋燭とメッセージプレートつきで特別注文した品が気に食わないとでも仰るわけですか?
 ええー。
「いやいやそれは勿論ありがとう! なんだが、そっちじゃなくて、その前のセリフをだな、テヌキで…」
 むすっとした私に慌てて釈明する彼の言動が、おかしい。
 その前のセリフをテヌキで? ってつまり?
 私はしばらく考え込んで、思いついた答えにいくらか脱力した。
「お誕生日様スキー…?」
「そうそう、それ。ワンモアプリーズ♪」
 変に嬉しそうな彼にワンモアの代わりに「くだらなッ」と言ってやると、間髪入れずに「酷ッ」と返ってくる。
「だって面白くないよ、もっと精進してよー」
「おまえそれ、俺の小鳥さんのようなハートが砕けるような言い方はよしなさいよ、ねぇ」
「だーかーらー、それがサムイんだってばー」
「…俺は違う意味で心にブリザードが吹いてますよ…ひゅるるるるー…そこに愛はないんですかね…」
「むしろハッキリ言ってあげるのが愛だと思いますけど?」
「…あら、そう」
「わかったら、そろそろ冷蔵庫を閉めてあげてくださいね?」

 ちょっとバカやってはしゃいで、それでしょんぼりした機嫌が直ったかと思ったら、今度はどんより。
 忙しい人ですねぇ、まったく。
 暫く首を傾げて見ていると、彼はふっと息を吐いた。私にそろえて首を傾けて、
「…で、だ。アナタ今日は何時ごろお帰りになっちゃうんでしょうかね」
 なんて質問を投げかけてくるではないか。
 信じらんない、この人。会ってすぐの彼女に普通そんなこと訊く? 遠まわしに「帰れ」って言ってる?




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