showcase 017 3/5
「突然来ちゃったマナー違反な人は、泊めてくれないの?」
「あ、いや、いやいやいやいや! 大歓迎ッ!!」
あ、そう。そうなの。なんて言いながら顔がほっこり緩んだかと思ったら、一気に彼の相好がくずれた。
つくづく思うことだけど、この人は本当に見ていて飽きないのだ。なんでこんなに感情の転換率が高いんだろう。なんでこんなにアワアワしてるんだろう。
落ち着きなさすぎ。
「てぇことはさ? 一応確認しとくけど、ほら俺今日誕生日だし、ここにラヴはあるそうですし…で、それを確かめあったりとかしちゃったり?」
「しちゃったり?」
「…していいの?」
「なんでいちいち訊いちゃうかなぁ、この人は!」
嬉しそうだなーとか来てよかったなーとか思っていたら、にっこりなその笑顔に似合わないセリフが飛び出たものだから、引き摺られて私の回転数も上がる。
テーブルも片付けたから、そろそろふたりでまったりほっこりしたいのに、否応なく忙しくなる。
もう、もう、もう!
変に脱力してソファに転がっていると、彼が変な風にソワソワしだした。
このソワソワ加減には少しばかり心当たりがあったりしたのだけれど、今はあんまり歓迎するものでもないので、私はおもむろにクッションを彼に向けて放り投げて、起き上がる。
「おわっ!」
「ちょっとそこのお兄さん」
「はて、なにかなー?」
教育番組のお兄さんのような声音と、それと裏腹な胡散臭い笑顔にも見覚えがある――ということは、私の勘は嬉しくもないことに当たっているらしい。
「まさかとは思うけど、『ケーキより先に愛を確かめあっちゃったり?』とか言うんじゃないでしょうね」
「ドキーッ」
「……『プレゼントはわ・た・し』なんて、そんなの言うわけないってわかろうよ、ねぇ」
これだから男ってヤツは…。
「たまには夢見てもいいんじゃないかという男のロマンを完全否定か…」
男のロマンというのは、そんな低レベルなものなんですか? と、私は言いかけてやめた。
口元に手をあてて哀愁漂う背中を演出しても、ほだされてなんかやるものか!
「そんなのゴミ箱にポイしてきなさい! ケーキが先っ!」
ああもう、なにしに来たんだろうね、私?
「まさか食後の運動で摂取カロリーを消費しようというわけじゃなかろうな…いやぁ、そんなに激しく求められたら俺どうしよう」
「そこ、変な妄想ばっかりしない!」
必死で真面目に保とうとして保ちきれない変な顔に向けて、私はもう1度クッションを投げつけた。
「な、今食べるってのはナシなの?」
「その前に夕ご飯だよ」
「あー俺昼飯遅かったからそんなには」
「でも作ったら食べるよね?」
「うん」
「ケーキも入るよね?」
「…うん。別腹に入れる」
クッション2個を小脇に抱えた彼が、私の隣に座る。
彼の体重でソファが傾いた分だけ、ほんの僅かにふたりの距離が縮まった。
「ケーキは夕飯の後なんだよな」
「うん」
「そうか、やっぱりお楽しみは最後に取っとくべきか…」
「だってほら、後で食べるって言っても、そんなの、胸いっぱいになっちゃってケーキなんて食べられるわけがな…」
「コラ待て。ちょっと待て、おまえなにか勘違いしてないか!?」
彼の顔が怒ってるような笑いを堪えてるような、とにかく変な表情になって、ついでにほんわりと赤く染まった。
うわ気味悪い。
その上広げた大きな両手を私の前に「ストップ!」とばかりに突き出すものだから、私は条件反射で口を閉ざす。
…ん?
……んんんっ!?
私はそこでようやっと、自分がとてもとても可愛いことを口走ってしまったことに、はた、と気がついた。
「なに言っちゃってるんだろうね私!?」
「知るかー!!」
私はゆでだこというか熟れすぎたトマトというか、それくらい真っ赤になって。
対する彼は、照れでどこか違うところにスイッチが入ってしまった、機械仕掛けのおもちゃみたいになってしまった。
…てのは嘘。ごめん。見た目の正直な感想は「赤鬼」でした。
やだ、こーわーいー。
……。
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