showcase 028 2/2




「お腹空いたじゃないの…」
「じゃあ、ご飯食べに行こうか」

 離れていた時間、君も僕と同じことを考えたりしたのだろうか。
 見つめる瞳の瞬きは、いつものように強いものだった。

 ボリュームを控えたカーステレオと一緒に鼻歌を歌いながら、僕は運転席の君を盗み見る。
 君が気にするので写真に収めることはできないけれど、今日の記憶もまた、褪せるようでいて色褪せずに僕の中に残るのだろう。
 初めての時のように、「好き」だけでは割り切れない。
 けれど、一直線とはいえない複雑に絡んだこの感情でも、僕が自覚する君への恋心に違いはない。

 自分でさえ御せない自分を、感情を、恋人という名の他人が御せるはずもない。

 僕は全部君のものじゃないから、君も全部僕のものじゃなくていい。
 ただ時には、全部僕のもので全部君のものだと自惚れさせてくれたら、それでいい。
 ――そういうことにしておいて、だから今夜も傍にいて。

「しの」
「なに」
「今夜は、僕だけのものでいて」

 あれだけ考えたのに物分かりのいいふりさえできない僕を、君はやっぱり呆れた目で見た。
 車が赤信号で停まったら、君はまた迷いもなく僕をここから叩き降ろすのかもしれない。
 …でも、僕は知っている。
 僕に差し込む光が君だけであるように、君に差し込む光も僕だけで、だから二人の道は何処までも止まることなく続いて行くということを。

「しの」
「…なに」
「さっきはごめん」
「…ほんっと、バカなんだから」

 街灯の下を通り過ぎる一瞬に、色褪せないように強く胸に焼きつける。
 一瞬ごとに移ろう表情は、いつも眩しくて、見飽きることがない。
 その不貞腐れた横顔は、今日のいい思い出として――僕の中にしまっておこうと、そう思った。


 -fin-


special thanks for しの




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