showcase 033 1/2




『やきもち』


 夕方に転がり込んできた黒くて大きなレトリバーは、いつものようにソファーの上に丸まって言った。

「テレビが面白くねぇ…」
「もうドラマ終わっちゃったんだから仕方ないじゃない」

 彼がやってきた時にはドラマは始まったばかりだったのに、じゃれ合っていたらいつの間にかテレビは次の番組に変わってしまっている。
 お正月も5日を過ぎれば、変わりばえのしないお笑い特番にはもう飽きて、観る目も多少冷めてくるというものだ。
 テーブルにリモコンを投げた彼に缶ビールを手渡して、隣に座り、私はもう1本の方を開けた。
 肩にぽすんと音を立てて彼がぶつかってくると、かぎ慣れた彼の香りが鼻をかすめる。
 …私の香水が少しだけ混じって甘く香る、それが今更ながらくすぐったい。
「そう言えば、私のお正月休みは明日までだからね」
 今年のお休みはカレンダーのおかげでいつもよりも長く、私は案の定だらだらと過ごしてしまった。
 もうすぐ日付が変わるので、そうしたら「お休みは今日まで」になってしまう。
 ――自堕落万歳な自分を省みて、新年早々少しだけ反省。
 彼が居る居ないは別としても、くちゃくちゃになったシーツやらの大物は、明日で洗濯してしまいたいものだけれど…。

「はぁ!?」

 彼は心底驚いたような顔をして、プルトップにかけていた指を止めた。
 びくりとした動きにつられて、私の肩も揺れる。

「ちょ、ちょっと待て。明日までってマジ?」
「…私だってまっとうな社会人ですよ」

 呆れた声になったのは仕方がないことだと思う。
 チャンネルを変えるとニュース番組で、ちょうど帰省客ののほほんとしたインタビューが流れてきた。
「ほら、みんなまた仕事に戻んなきゃなんないんだから」
 夜型生活気味なのは、甘えたがりなあなたのせいじゃないのよ。もう。
 私は少々膨れつつ、乾杯もしないうちにビールに口をつける。
 彼はあんぐりと口を開けたまま、テレビと、携帯電話の待ち受け画面のカレンダーを交互に見た。

「マジかー」
「そうなのよー」
 彼は小さな目を泳がせて「やべぇ」と言いながらキッチンへ走った。

「?」

 どうしたことだろうと見ている私は放ったらかしで、靴下を履いた足は器用にフローリングの上を滑り、冷蔵庫の扉を開けてその前にしゃがみこむ。
 そのままの姿勢でなかなか動かないのを見ていると、彼は開け損ねたビールの缶を冷蔵庫の中にしまった。
 私のビールは半分に減っている。
 彼は壁に掛けたコートを羽織り、テーブルの上の鍵を取って、振り向いて言った。

「俺ちょっと出かけてくる」
「…え?」
「すぐ戻るけど、物騒だから鍵とチェーンはちゃんと掛けとけよ!」
「へ?」

 がちゃん。
 きぃっ。

「ちょっとー?」
ちょっと、ちょっとー?

 ばたん。

「……」

 …ええと?
 なんだったんでしょうか、今のは。
 わけがわからないまま、言われた通りに玄関に鍵とチェーンを掛けに行く私がいる。
 ソファーに戻ると、彼の携帯電話は置き去りにされていた。
 …そして私も置き去りだ。

 ――私の部屋なのに、なんだか寂しい気がするなんて、これ如何に。


 それから彼は予告通りに、すぐに戻ってきた。
 …のはいいのだけれど、その手に、近所の24時間営業のスーパーの袋を提げていた。




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