showcase 033 2/2
「雑煮食いたい」
彼は目をキラキラと輝かせながら、私の手からビールを奪い、そのままキッチンへと引っ張った。
その背中はまるで散歩に誘うレトリバー。嬉しそうに尻尾を振っているのが見えるようだ。
「雑煮って、あの雑煮?」
「あの雑煮以外にどんなのがあるんだよ」
餅買ってきたから、なんて言いながら彼はビニール袋の中身をテーブルに並べてゆく。
お餅以外にもお野菜やら蜜柑やら、――お菓子まで入ってるのはどういうことだろう。しかもチョコパイ…それなら彼用の棚の中に、非常食として常備してあるのに。
「俺、お前と正月らしいことなんにもしてねぇじゃん」
「正月らしいって」
確かに、一人暮らしなのでおせちを作るわけでもないし、今年はお餅でさえも用意してなかったけどね?
深夜帯の面白いんだかつまらないんだかわからない特番を一緒に観て、こたつはないけど蜜柑を食べて、あとはお酒も呑んだ気がするんですけど。3日くらい前に。
お正月らしさなんて、そんなものでいいんじゃないの?
「雑煮! 雑煮食いたい!」
「今から!?」
「おう」
「私もう呑んで…」
「わかった、なら餅は俺が焼く。お前は汁を作れ!」
「作れって言ったってねぇ、」
「いいからさ、作ろうよ。俺はお前と一緒に正月っぽいことがしたいわけよ」
私がぐだぐだとごねていると、肩に腕を回して彼が圧し掛かってきた。
トーンダウンした声が耳元をくすぐる。
「そんなのばっかりだと太るよ?」
いつの間にか仔犬みたいになってしまった彼のお腹を撫でたのは、ついさっきだったはずだ。
「明日の朝はなめこと豆腐の味噌汁」
「作ってくれるの?」
「…が、食いたい」
「…結局どっちも私が作るのね」
さっき冷蔵庫の前に長いことしゃがんでたのは、食材を確認していたってことなんだろう。
背中に回した手でぽんぽんと撫でると、彼はにやりと笑った唇を私の頬に押しつけた。
「お箸取って」
「砂糖醤油は?」
「…お餅はお雑煮に入れるんじゃないの?」
「や、その前に普通に食いたくなったんだよ」
結局私は乞われるままに、砂糖醤油まで作るはめになった。
…あーあ。すっかり男に甘くなっちゃって、どうしようね、もう。
テレビは番組と番組の間らしく、天気予報を兼ねたコマーシャルが聞こえてくる。
どうやら晴れるらしいので、洗濯物はふかふかに乾いてくれることだろう。
「なんだよーもう休みは終わりかよー」
コンロの脇、尻尾を垂れたレトリバーの、黒くはねた髪を撫でる。
――日付が変わってしまったので、お休みはもう今日で終わりだ。
砂糖醤油なやきもちを一口だけ私に味見させた彼は、「休みの間はひとり占めだったのに…」と膨れて、とても悔しそうな顔をした。
-fin-
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