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 アイツに繋がらない理由、いろいろ考えてはみたけれど、納得するようなのが浮かばない。
 ああお前、今何やってんの。どこに居るの。彼氏が寂しがってますよ。
 …ってのはきっと、放ったらかされてたアイツが言うべきセリフだな。
 ごめん、反省してるから、前よりもっと大事にするから、声だけでも聞かせて。すごく会いたくなっちゃったのよ、なんて女々しいけど今なら言えそうよ、俺。
 そう言えば女々しいのはいつも俺の方だったね。甘えてんのも、我が儘言ってんのも、大概俺の方。
 さっきからずっとそんなのばっかり気にしてて、電池の切れそうな俺と、俺の携帯電話。あ、ほら、携帯はマークが赤くなっちゃったじゃん。
 充電、充電…そう言えばコードは鞄の中だった?
 ソファーの上に放ったままだった鞄の中は、俺のやることだ、当たり前のようにごちゃごちゃしている上にコードは何かと絡んでいて、すぐには取り出せそうにない。
 ――こんな風に、俺とアイツの間もコードで繋がれてたらいいのにな。探さずに済むくらい、いっそややこしい間柄でも、お前とならいいのに。
 絡んだコードを解しながら俺はそう思う。かなりの重症ですよ、どうしてくれんの、なぁ。
 アイツの気配を感じなくなった俺の部屋だけど、アイツの髪を撫でた時だとか、肩を抱き寄せてみた時だとかの感触や、その時の状況を、俺はちゃんと覚えている。
 年をとったって照れくさいことはたくさんあって、不思議なことに、そういうのの方こそ鮮明に覚えちゃってるもんだよな。
 抱きしめられた時の首筋の柔らかい香りが好きなんだって、俺、お前に言ったことあったっけ。
 癖のある俺の髪を撫でる、お前の優しい手が好きなんだって、そういうのなら多分知ってると思うんだけど。
 絡んだコードはようやく解けて、今度はソファーの上に鞄の中身が散乱している。今日何度目かのメールセンターへの問い合わせには、まだ反応がない。
 お前はとにかく早く連絡よこしやがれ。俺が寂しいから、そろそろ勘弁してやって。

 なんてやってるうちに鳴り出した俺の携帯、ピリピリと震えて伝えるディスプレイの中に、待ちわびたアイツの名前、
 …は?
 アイツの名前?

「あああ!?」

 ビックリして携帯落としてる場合じゃねぇだろ俺!
 どうするよ、床ですごい音がしたよ今、着信音が聞こえねぇんだよ、電池パックが外れてソファーの下に滑ってったのは目の錯覚か。コントかこれ!?
「とか考えてる場合じゃねぇ!」
 俺は焦って、結構、いやかなり汚いことになってたソファーの下、拾った電池にくっついてきたワタボコリを吹き飛ばした。先ずコレを携帯にセットするだろ、電源入れ直すだろ、鞄からコードを出してきて繋ぐだろ、それから履歴――着信も発信も1番にお前の名前、どっちでもいいからとにかく繋げて――

『ねぇ何してんの?』
「何してんの、じゃねぇだろ…」

 心臓はバクバクいってんのに、脱力するってのはこういうことを言うんだな?
 俺はソファーに倒れこんで、寝転がったままでアイツの声を聞いた。背中にごつごつと当たる鞄の中身。弱ったスプリングが変な音で鳴る。
『珍しいね、充電でも切れた?』
「そうなんだよお前が変なタイミングで電話かけてくるから…じゃねぇだろ! 何処だよ今、俺がどんだけ電話かけまくったと思って」
 必要以上に声を張り上げてしまうのは、動揺してる自分をどうにもできないからだ。ああ畜生、格好悪ぃじゃねぇか俺!
 いや今更だとは思うけどね、俺がアイツの前で格好悪いのなんて今に始まったことじゃないからね。特に今日は…。
 対するアイツは結構な時間黙って、それから観念したように居場所を白状しやがった。
『……えーと、病院?』
 ……。
 は?
 びょういん?
 俺はここでフリーズだ。そしたらついでに電話の向こうでアイツも黙る。奇妙なシンクロだが息が合っているとかそういうことじゃあ、ないぞ。
 嫌な予感、今までこういうことって確かあったよな? 俺があんまり思い出したくなかっただけで…。
 コイツと変に連絡が取れない時間、電源が切れた携帯電話、普段はハッキリ物を言うくせにこんな時だけ言い淀む、つったらアレしか思い浮かばないよ俺は。
 ああ嫌な予感。ほんっとに嫌な予感。
 電話の向こうは元気そうな声だけど、本当に元気なのかなんて、顔見てみなけりゃわかんねぇし。




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