star sugar 015 5/5




ver.15.5


『女が体を冷やすな』
 そんな一言に、どんな暑い日にでも、アイスコーヒーを飲まなくなった自分がいた。
 台所の出窓からは小さな庭が見渡せて、盛りを過ぎたバラが緑色の葉を茂らせている。
 ――どうしてよく見えるところにあれを植えたりしたんだろう。
 立ったまま珈琲を飲み干した、そのカップを洗うのがどうしてだか億劫だった。

 他よりも成長の遅い蕾を大事に大事に守ってきたつもりだったのに、
 ちょっと買い物に出掛けた隙に、外側の花びらは虫に喰われてしまっていた。
 穴の空いたつぼみはどうしても変形してしまうもので、けれど、それでもなお花開こうと頑張っている。

 それはまるで私を見ているようで――どこか、いたたまれない。

 私は庭に出て、剪定バサミで躊躇いなくそれを切った。
 枝形は多少いびつになるけれど、どうせ見てくれる人はいないのだから。
 ――多分今年も、あの人の手が触れることはないのだろう。
 ドアを開けて『ただいま』と帰ってくるその姿は、もう思い出ではなく、希望でもなく、ただの幻影。
 私は細長いグラスにその枝を挿し、開ききっていない花びらに軽く触れた。
 このバラが開いて、花びらが枯れて落ちたら――
 本当はもう失ってしまったのかもしれない恋を、ひたすらに想い続けるのは……これで終わりにしよう。




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