collabo 005 1/3
『君の名は―――2.5 欠席裁判』
佐倉大本営研究所、略して秘研では、今日は恒例の幹部会が開催される日である。会議室に集まった色を冠したコードネームを持つ幹部たち――パールホワイト、クリムゾン、アイリス=パープル――は、開始時刻になっても顔を見せないツートップに不満たらたら、やる気ぐだぐだの様子を見せていた。
「遅い」
机に頬杖をついてパールホワイトが言う。
「いちゃついてるに百円ー」
「俺もそっちに百円」
クリムゾンが賛同する。
「みみっちぃこと言ってないでもっと金額上げたら?」
「んじゃ決を取るけど、いちゃついてないに賭けるヤツは?」
「「…」」
賭けになんないじゃん。
それぞれ「あー」とか「うー」とか意味不明な音を出して机に沈んだところで、ドアが開いた。
「代理の流石さん只今参上〜」
掛け声で登場した人物は、カフェエプロンの上に白衣着用。ファイルの山を持参である。
なぜこの男は両手いっぱいに荷物を抱えた姿が画になるのだろうか。
「えー、マクシムは急遽出張となりましたので、俺様が代理です。毎度のことですがヨロシク」
「何だハズレか」
「…おい博士、俺の顔見て「ハズレ」とはどういう了見だ」
「流石さん、それ誤解です」
「百円の行方が定まらなかっただけだから」
察する所があったらしく、ああ、と流石が納得した顔になった。
「サーちゃんは?」
「向こうは忙しくて遅れるらしい」
「俺らまだ待たされんの?」
「いい女は男を待たせてもいいんだよ」
「流石、参謀狙いか?」
「んなワケねぇだろ」
幹部会と言ってもこんなものである。
このようにロクな会話はされていないのに、秘研が一組織として立派に運営されているのが不思議なくらいだ。
「おいコーヒー屋、暇潰しにコーヒー淹れろ」
「あのな、俺は所長代理なの。今この時点では誰よりエライのよ」
「決定権はないけどな」
「…ちっ」
渋々部屋の隅に置かれたポットへ移動する流石の背中に、パールホワイトが尚声をかけた。
「ところで広報部、面白いネタがあるんだが知ってるか?」
所内で密かに広まりつつある噂とは、こうだ。
――所長が、どうやら浮気をしているらしい。
「深夜に謎の振袖美女と密会してるらしいぞ? 相手の特徴は黒髪に白い肌、透き通るような白い手に良く映える黒のマニキュアを塗っているそうだ」
背後から絡んでくる腕のマニキュアで、参謀か謎の美女かを判断してるんだとか。
「うわ、所長やるぅ」
クリムゾンが口笛を吹く隣では、参謀派を自認するアイリスが仏頂面だ。
「…博士、それ何処で聞いた?」
声のトーンを落とした流石が訊く。
「何処って、支部にまで広まってるぞ。此処に来る途中でもそこかしこでコソコソと」
「ふぅん…」
話に食いついてくるかと思いきや、思案顔になった流石に、パールホワイトは怪訝そうに尋ねた。
「てっきり暇な広報部が流してるんだと思ってたんだが、違うのか?」
それに対し、流石はうんにゃ、と首を横に振る。
「広報部のガセネタ流しならさ、もっとこう胸びれ尾ひれが付くようにやるんだよ。発想は大胆だけど、情報自体は曖昧かつ繊細に小出ししてさ。その方が後の反応が面白いから」
でも今回の噂は…噂にしてはえらく詳細でさ。気になって調べてみたんだけど、皆一様に同じ事を言うんだよ。
なんか…まるで誰かが上手く情報操作してるみたいに。
「…そこまでは気が付かなかったな」
「俺たちだって、伊達に広報部を名乗ってないからね」
得意気に胸を張ってみせた流石は、とりあえず全員にコーヒーを回した。
「流石さんの推理通りだったとしたら、一体誰がそんなこと?」
黙って話を聞いていたアイリスが口を開く。
「さぁ?」
「所長に敵意を抱いてる、とか」
「そんなのありきたり過ぎじゃないか?」
「じゃぁ、所長を攻撃してると見せかけて、本音は参謀狙いとか」
「どうだろね? この程度の噂でどうこう言う仲でもないでしょ、あの2人」
「そうだなぁ」
「下克上の一環のつもりとか?」
「ああ、そういうのはアリかもねぇ」
「にしてもあんまり上手な挑戦状じゃないよね。遠まわし過ぎて」
「まぁ、何でもいいんだけどさー。ぶっちゃけ俺らにゃ関係ないしー」
「「「うん」」」
適当なことをポロポロ零しあって、井戸端会議室の面々はひたすらコーヒーをすすった。
***
カツン、カツン、と硬質でリズミカルな音が通路に木霊する。
音の出所は勿論、素晴らしい脚線美をお持ちの、佐倉大本営研究所、通称秘研のサーモンピンク女史である。
「…遅刻だわ」
3rdブロックから中央区までの最短距離をはしたなくない程度の早足で歩きながら、サーモンピンクは呟いた。
幹部会開始予定時刻から、既に30分ほど経っている。
――でもまぁ、所長は出張だし。残りの人たちなんて待たせててもいいし。
実はかなり自分本位な本音を曝して、彼女は通路の角を曲がった。
所長室の前を、通過する。
「……」
誰も居ない部屋のドアを一瞥して、サーモンピンクはここ数日彼女を悩ませている事柄を口にした。
「…『メルメルメ〜』って、何?」
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