collabo 005 2/3




 事の起こりは数日前。
 隣で寝ている人物が動く気配で目覚めたら、まだ真夜中で。
 …マクシミリアン?
 そっと呼びかけてみたら、唸るような声が返ってきて、少しびっくりして。
 上体を起こして顔を覗き込んだら、眉間に皺。
 どうやら夢でうなされるらしいその人が、苦しげに身を捩って、
「……メ…メルメルメ〜……」
 呟かれた言葉が彼女が知る言語ではなかったため、一体何にうなされているんだか計り知れず。それ以前に普段は寝言を言うような人ではないし、そもそもうなされている人なぞ見たこともないのでどう対処していいのやらわからなくて。
 暫く様子を観察してみて、特に面白いこともなかったので、結局、睡魔に負けて寝たんだけれど。
 その日の朝起きたら何でもない顔をしていたから、まぁいいんだろうと思って記憶の外にはじき出したのに。
 あろうことか昨晩も同じ様子でうなされて、言った寝言が「メルメルメ〜……」ときたものだ。

「だから、『メルメルメ〜』って何?」
 どうにも気になる奇怪な台詞に、釈然としない思いを抱きながら、彼女は会議室へと向かった。


 ***


「それにしてもさぁ」
「何」
「所長が浮気、って」
 こちら会議室の面々は、相も変わらず件の噂の件で盛り上がっている。
「あーありえないね」
「それは、親友として庇ってるのか?」
「てか、浮気されてるんならありえるけどな。ヤツはそういう男だ」
「…意外に女運ないのか?」
「えーでも所長って顔いいし頭いいしファンクラブだってあるし」
「でもとか言ってもそういう男なんだからしょうがない。俺は良く知っている」
 付き合った女は数知れず。そして振られた女はその数とほぼイコールだ。
「何と言うか、不憫なヤツだ」
「「「うん」」」
 流石のタレコミを受けて、全員が頷いた。所長って無駄に苦労して生きてるんだろうなー、なんて思いながら。
「…それにしても」
「なんだクリムゾン、その台詞今日で2回目だぞ」
「いや、ちょっと思い出してさ」
「何」
「俺この間、所長に『幻水』のこと訊かれたんだよね。それって変じゃない?」
「…『幻水』って、お前がやってるゲームのあの『幻水』か?」
「そ、『幻想水滸伝』」
「何故マクシムがお前さんにゲームの話を訊く必要があるのさ?」
 テレビゲームに興じる所長の図――かなり想像がつかない。
「そんなの俺が知りたいって」
「…そう言えば」
 今度はアイリスが腑に落ちない顔で言う。
「私もこの間、所長に『ガッシュ』のこと訊かれた」
「『ガッシュ』って、あの『ガッシュ』?」
「何だその『ガッシュ』って」
「少年漫画」
「…は?」
「だから、『金色のガッシュ』っていう少年漫画のこと訊かれたの」
 少年漫画を読みふける所長の図――もっと想像がつかない。
「プレステのゲームに漫画?」
「それとマクシム? ありえない組み合わせだなオイ」
「そうだよなぁ」
「そうだよねぇ」
 ……。
 ありえない組み合わせ…なのか?
 意外な論点の出現に暫く顔をつき合わせて考え込んだ後、一同は一つの仮説を導き出した。
「「「「…浮気は本当?」」」」
 きれいにハモった台詞に一瞬きょとんとして、口々に「いやいやいや」と場を取り繕うような声を上げる。
「でもでもでも」
「うんうん」
「そうとしか」
「だよなぁ」
 しかしたどり着くのは結局同じ結論で。
「その浮気相手の黒髪美人が、ゲーム好きとか」
「ついでに少年漫画も好きとか」
「それで所長は紅蓮とアイリスにその話を訊いてみたとか」
「そりゃぁこの2人なら知ってるだろうしなぁ…」
 ……。
 それなら、ありえるんではなかろうか?
 と言うか、充分ありえるだろう。うん。
「マジで!? マクシム!?」
「えーイヤー所長ー!!」
「信じらんね…」
 半ばパニック、半ば放心状態の3人をよそに、パールホワイトは一人何か考えこむ様子で暫し黙った後、言った。
「紅蓮、アイリス…お前達、その話は他言してないよな…?」
 ……。
「「「!!」」」
 パールホワイトの言わんとするところを瞬時に理解した面々は、一様に顔色を失くした。
「これがまかり間違ってサーちゃんの耳に入った日にゃ…」
「血の雨が降る…絶対血の雨が降る…」
「なんてことっ…」
 最悪の事態を想定してしまった一同は、ガクガクブルブル震える体を寄せ合った。
 その時。

 ガチャ。

 タイミングの神様は何とも酷な運命を用意するもので、会議室のドアが開いた。
「遅れてごめんなさいね」
 入ってきたのは勿論――渦中のサーモンピンク女史、その人。




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