collabo 006 1/1




『ダブルユー』


 今日も美味しいの作っちゃおっかね〜♪と、朝も早くからルンルン気分で、流石は店の鍵を開けた。
 カウンターの脇を抜け、厨房へ回る。

「あ゛?」

 業務用薄力粉の大きな袋の影に隠れるように、何かが動いているのが見えた。
 多分それは――黒髪の、誰かの頭。
 …ちょっと待て。俺ちゃんと戸締まりしたよな。何だって人が居るんだよ?
 足音を立てないように、気配を伺いながら、流石はゆっくりとそこへ近付く。途中で製菓台の上に放り出されてあったパレットナイフを掴んで構えたのは、こんなナリでも一応ナイフだし、という自衛本能からだ。
 ――じり、じり。
「不法侵入してやがんのはドコのどいつだぁ!?」
 パレットナイフを構えたままで、真正面に踊り出る。

「Σ※●△◆☆◎!!」

 その瞬間、意味不明な叫びが上がったのは一体どちらの口からか。
 山積みにされた薄力粉の影で、黒髪の持ち主は、冷蔵庫に保管しておいたはずのメロンピューレを貪り食っていた。
 黒い服と長い髪が、薄力粉で所々白く汚れている。
「な、何だオマエ!?」
 襲撃したはずの流石の方がうろたえているようなのは、どうしたことか。
 黒髪美人は床に座った姿勢のままで流石を見つめると、どこか哀しげにこう囁いた。
「フルーチェメロン…」
 …いやそれ、お手軽レトルトデザートじゃないし。
「じゃなくてッ! …って…?」
 厨房の明かりを付けて良く見れば、この黒髪は誰かに似ている。そりゃもう毎日鏡越しに出会うような…。
 黒髪美人も何かに気付いたように、きょとんと流石を見つめた。
 ――視線が、交錯する。

「アナタ、ワタクシに似てまスね」
 薄汚れた黒髪美人が、独特のイントネーションで言った。
「ほんっと…お前さん、俺に似てるねぇ?」
 流石が言った。
 そうなのだ。互いが互いに、妙に似ている。それはもう、他人だとは到底思えないレベルで。
「ユニきゅんの言ウ通り、ウリふタごって居る出スね?」
「ユニきゅんが誰だか知らないが、似すぎだよな?」
 流石が右手を上げる。すると、黒髪美人が左手を上げた。
 流石が両手を頭頂にやる。すると、黒髪美人が両手を頭頂にやった。ついでに「ウき?」と鳴き真似をした。

「ひょっとして…俺ら、同志?」
「モしかシて、アナタ、ワタクシのおなカマさんでスか?」
 暫らく見つめあって、ふたりはどちらからともなくニヤリ、と笑った。
 それは、鏡に映したかのように、とても良く似た笑みだった。

「あーあこんなに汚れちゃってさ。俺の服で良ければ貸してやろっか」
 流石が座り込んだままの黒髪美人に手を差し出した。その手を掴んで、黒髪美人が立ち上がる。
「美味シいもノいっパイで、ワタクシここ気二入りマスた」
 並んで、手を繋いで。
 そこにはまるで双子のような、よく似た無邪気な笑みがふたつあった。


 -fin-


reproduced 【NEW WORLD(仮)】

special thanks for 相沢友弘




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