collabo 009 1/1
『君の名は―――5』
喫茶【RHAPSODY】の扉を叩く謎の黒影───
「サ−スーガーちゃーん、あーそーぼーっ!!!」
黒影がいくら扉を連打しても大声を張り上げても中から流石の反応はない。
それもその筈。今夜は聖バレンタインデーの前夜である。
菓子や業界の陰謀に便乗して売上を伸ばそうと流石も仕込みに忙しいのだ!!
流石はチョコクリームを泡立てながら、外まで響くように声を張り上げた。
「あぁーとぉーでぇーっっ!!!」
「ちっ…留守ですカ…」
扉の外で影が悔しそうに舌打ちする。
たとえ家の中にお目当ての本人がいたとしても「後で」と言われてしまえば自動的に留守だと見なされてしまう。
それは何時の時代も変わる事のナイ、子供同士の暗黙のルールなのである。
「仕方ない、他の所にイきますか」
黒い影はしぶしぶ【RHAPSODY】を後にした。
そして、その腕の中には禍々しい妖気を放つ一本の黒い筒が抱えられていたのだった…。
何時の間にか眠ってしまったらしい。
真夜中の仕事場で所長は1人目を覚ました。
つけっぱなしのパソコンのスクリーンセーバーを解除して時刻を確認する。
2005.02.14 AM2:47
シャワーだけ浴びに一度家に戻るか。
所長は机に両手を突いて立ち上がろうとした所で、指先に何か硬いものが触れた。
視線を落としてみると、そこには小振りの黒い筒───魔法瓶だ。
中を開けてみると、香ばしいコーヒーの匂いが暗闇の所長室一杯に広がる。
これは流石からの差し入れか…いや、今日はもうバレンタインデーだから日付けが変わると同時に、愛しい恋人のサーモンピンクが来ていたのかも知れない。
そう考えると所長の心も自然と弾んで来る。
所長は芳しいブラックコーヒーの香りと手の中の温もりを暫し楽しんでから、魔法瓶添付けの簡易カップに口を付けた。
ブフ━━━━━━━━━ッッッッ!!!!!
「すっぱ!!何だこのコーヒー!!色も匂いもコーヒーなのに一口飲んだら100%やずやの黒酢じゃないか!!誰だこんな手の込んだ悪戯したヤツは!!!」
予想もしていなかった展開に、所長はむせ返りながら怒りをあらわにする。
「フハハハハハハ!今回も気持ちイイ程不様に引っかかリマしたねマクシミリアンシュナイダー!」
高笑いと共に天井裏から落ちて来たのは───
「貴様あの時の振袖!
酸っぱい時点で薄々ながらそんな気もしていたが、やっぱり貴様の仕業だったのだな!?」
答えるかわりに謎の振袖美人が妖艶に微笑う。
「毎日毎日僕らは鉄板の〜…もとい、サスガちゃんのお家に遊びにイっておキナがら、サスガちゃんのコーヒーとやずやの黒酢の区別が付かないナんて、マクシミリアンシュナイダーの味覚は腐っちょう!!
これを機に『マンハッタン・ラブストーリー』でも見てコーヒーの何たルかを学ぶがヨイのですバーカバーカ更にバーカ!!」
例のごとく神をも恐れぬ捨て台詞を吐き、振袖美人は闇に溶けようとする。
「ま、待て!貴様一体何者だ!」
所長は手を伸ばしたが、蝶の柄の付いた黒振袖は惜しくも捕まえる寸前の所で、所長の手を擦り抜け消えた。
後に残されたのは、呆然と立ち尽くす所長と、芳しいコーヒーの香りだけだった。
「マンハッタン…ラブストーリー…か」
今までの捨て台詞と言えばヤレ少年漫画だのゲームだの、やたら子供じみたものばかりだった。なのに今回はラブストーリーとは…。
まさか、『マンハッタン・ラブストーリー』にこそ、あの謎の振袖美人の秘密が隠されているのか!?
所長は仕事の後片付けもそのままに、深夜のレンタルビデオ屋に走ったのだった。
『マンハッタン・ラブストーリー』が、ラブストーリーの名を借りた、恋愛は勿論あの振袖美人とも全く関係ないテレビドラマだと所長が知るのは、これから数時間後の話である。
-fin-
special thanks for 相沢友弘@【NEW WORLD(仮)】
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