collabo 010 1/1




『おたんじょうびのうた』


 2月28日。
「たんタンたんタンた〜んじょッうびィ〜♪」
「きょ〜うッはシェラサちゃんのた〜んじょッうびィ〜♪」
 息のあった楽しそうな歌声が、早朝の【RHAPSODY】に響く。
 リズムに合わせて2つの泡立て器がくるくると回り、ガッシャガッシャとまるで伴奏だ。
「ベリーのクリーム完成ッ☆」
「おっしゃぁ、こっちもチョコクリーム完成ッ!」
 あやがピンクに染まったボウルを掲げると、応じて流石も自分が担当しているボウルを掲げた。
 ふたりがかりで製作に取り掛かっているのは、新しくできた友達の誕生日を祝って贈る、初めてのバースディケーキ。
 製菓台の横には、ラッピングされた箱が置かれている。お茶好きなシェラサのためにふたりが用意したのは、薫り高い紅茶の詰め合わせだ。
 プレゼントを手渡す瞬間のワクワク弾む気持ちを想像しながら、ふたりは鮮やかな手つきでケーキを作り上げていく。
 甘さを抑えたココアスポンジにスライスした苺とベリークリームを挟みこみ、それを3段重ねたところで、チョコクリームで全体を覆う。こうすると、切り分けた時に目にも美味しい仕上がりになる。
 後はチョコクリームを見栄えよく絞って、あやが差し出す苺やラズベリー・ブラックベリー・ブルーベリーを配置して。

 シェラサちゃん
 おたんじょうびおめでとう

 平らにならした中央部に、バースディケーキならではのメッセージ。それを残しておいたベリークリームでうにょんと書き記して、流石は笑んだ。
「最後の仕上げはコレだ!」
 じゃじゃんッ、っと効果音付きで取り出したのは、3体のマジパン人形。
「あああたしがいるゥ!?」
 色鮮やかなケーキの上に誇らし気にたたずむそれを見て、あやが叫び声を上げた。
 あやと、流石と、シェラサ。3体のデフォルメ人形が、よく似た笑顔でラウンド状に配置されている。
「今回のテーマは“シェラサちゃんと愉快な仲間たち”だ!」
 因みにチョコとベリーの色の対比は、普段のシェラサをイメージしてある。
「きゃーっマスター天才〜ッ!」
「そうだろう。そうだろうとも」
 フハハハハ!
 出来上がったケーキをあやが手を叩いて褒め讃えると、流石がふんぞりかえった。
 あやは褒め上手だ。流石は褒められると実力以上を発揮する性格なので、ふたりはとてもいいコンビである。そこに最近混ざるようになったのが、件のシェラサという名の振袖美人だった。
 悪ノリ好きの血が互いを呼んだのか、何なのか。
 シェラサは秘研の一員でもないのに【RHAPSODY】に入り浸ることが増え、そして3人はとても気が合う友人となったのだった。
「ところでマスター」
 ご機嫌な流石を前に、あやが「?」と首を傾げた。
「『th』のとこ空白になってるよ?」
 あやが指差す先は、ベリークリームで書かれたメッセージの部分だ。見れば確かに『○歳』と表示されるべき場所に、あるべき数字がない。
「……」
「…?」
 あやの無垢な視線を避けるように、流石がうつむいた。
「あや…お前、シェラサちゃんがいくつか知ってる?」
「…ぅえ?」
 そう言えば、誕生日が今日なのは知っているけれど、いくつなのかは…。
「シェラサちゃんは年令不詳なとこが面白いのよねー?」
「つまりはお前も知らないわけね…」
 バースディケーキには歳の数だけのロウソク、というのが外せないオプションなのに、これではメッセージ共々共倒れである。
「まさか誕生日当日に本人に聞くわけにもいかんよなぁ」
 それはいくら何でも不粋だ。
「とりあえず成人はしてると思うよ?」
「うん。あの色気は未成年にゃ出せんだろ」
「それに未成年はあんなにセクハラ魔じゃないよ?」
「まあなぁ。手つきに躊躇いがないしなぁ」
 シェラサのスキンシップ――本人はあくまでもスキンシップと言い張る――は、ある意味過剰で過激だ。
「「シェラサちゃんは、一体いくつ?」」
 流石とあやはそろって首を傾げた。
 数字が入れられないとなると、『th』の文字は消さなくてはならない。かと言ってクリームを削ってしまうとそこだけ不恰好になってしまうのは否めないし、隠そうにもベリー類は使いきったし…ここはどうしたことだろう?
「ああッ!」
 あの手があったぁッ!!
 何事か閃いたらしい流石が、ガサガサと冷蔵庫の中を漁りだした。目を丸くして見つめるあやをほっといて、見つけた生地を取り出して、むにむにこねこね。
 ものの数分で、ソレは出来上がった。
「マクシム人形かんせーい☆」
 流石はデフォルメされてもどこか不機嫌そうなマクシミリアンのマジパン人形を、ピンクの文字の上に置いた。
「隠蔽工作もかんりょーうッ☆」
 あやが笑う。
 満足気な笑顔のふたりは、ハイタッチで互いの健闘を讃えた。


 ***


「「たんタンたんタンたんじょッうびィ〜♪」」
 ロウソクの炎がやけに眩しいケーキと――結局数は気にせず、賑やかな雰囲気を出すことに専念した――飾りのリボンが可愛らしいプレゼントの包みと、自分に向けられた笑顔と祝いの歌。
 【RHAPSODY】を訪れたシェラサは、まずクラッカーの音に驚き、続いてバラと飴細工のリボンで飾られたテーブルと、歌とに驚いた。
 歌が終わると、心得たようにシェラサが炎を吹き消す。
「ウワァーン、流石ちゃんモあやチャンモ大好きなノレすー!」
 シェラサは拍手と笑顔を振り撒くふたりに抱きついて、どさくさに紛れてお尻を撫でた。
「だあぁぁぁっ!?」
「シェラサちゃんのエッチィー!」
 流石が飛び退き、あやが間髪入れない平手打ちを食らわせる。
「愛がイタイでスよあやチャン…」
 オンナノコってむずカすィのですね…。
 シェラサはそう言って殴られた頬を抑えて少し凹んだ様子を見せたが、次の瞬間には顔を上げてニッコリと微笑んだ。
「フタリともアリガトござマス。ワタクシこれ食べてモよろスィーダすカ?」
 美味シソーなのレすー♪お人形さんもかワユいのデスー♪
 ケーキを前にはしゃぐシェラサに、ふたりの顔も自然とほころぶ。
「もッちろーん☆」
「人形もおかしで出来てるから、食べられるからね?」
「エエーこンなにかわユイのニ、食べチャったら勿体ないノデすー」
 3人が寄る様は、【RHAPSODY】でよく見られる、女の子同士のお客がショーケースを前にニコニコし通しな、あの感じによく似ている。
 ケーキを目にしたとたんに幸せな笑顔で、あまつさえケーキに手まで振ってしまうその心理は、きっと女の子ならではの感性なのだろう。
 シェラサもニコニコと笑顔で、切り分けてもらったケーキを前にフォークを構えた。
「イッただっきマ…」
「あ、言い忘れてたけど、このケーキのテーマは“シェラサちゃんと愉快な仲間たち”だゾ☆」
「……」
 流石の言葉に、シェラサが一瞬動きを止める。
 流石とあやとケーキを交互に見て、シェラサはおもむろにフォークを置いた。
「ジゃあコレは要らナイのれス」
 アーン。
 シェラサはそう言って黒く塗った爪の先でマクシム人形を摘み、躊躇いなく咀嚼した。


 -fin-


reproduced 【NEW WORLD(仮)】

special thanks for 相沢友弘




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