collabo 011 1/2
『君の名は…?』
佐倉大本営研究所、略して秘研の所長室。
所長:マクシミリアンがまたしても振袖美人の襲来を受けてから、1ヵ月が経とうとしていた。
「大分遅れたな…っと、何だ?」
長引いた客先との打ち合わせから戻ってみれば、机にセロテープで貼りつけられていた一枚のチラシ。
『部屋に染み付く酢の匂いは男の人気のバロメータ。
ホワイトデーのお返しは10倍のワインで甲斐性をアピール!
義理でくれたあの娘も振り向かせるんだ!』
「何だこの安っぽい恋愛指南書みたいな紙切れは」
何だ、と言ってはいるが、酢なら心当たりがある。しかももの凄く嫌な心当たりが。
「人のいない隙に不法侵入だと…?」
マクシミリアンは、四隅どころか丁寧にぐるりと一周セロテープづけされたソレを剥がそうと試みた。しかし短く切り揃えた爪ではなかなかどうして難しく、低く毒づきながらの作業になる。
A型の性か、往生際悪く途中で切れて残ったテープも丁寧にこそげ落として、「これでよし」とばかりにチラシを取り除けば、
『バーカバーカバーカ』
チラシの下の机にマジックで落書きされた似顔絵が、マクシミリアンに向かって舌を出していた。
泣く子も黙る(?)秘研所長のマクシミリアンに向かって、特に意味もなく暴言を吐きやがる怖いもの知らずは――ひとりしかいない。
「……」
しばし無言で落書きを見つめていたマクシミリアンだったが、徐に似顔絵を目がけてぐしゃぐしゃに丸めたチラシを投げ付けた!
「ククク…お返しとやら、用意してやろうじゃないか…」
眼鏡のレンズがキラリと光る。いつもの眉間の皺に加えて、額に交差点ができていた。
【用意するもの】
・去年のパーティーで余ったボジョレー・ヌーヴォー10本
・使い古したスーツケース
新調したため持て余していた以前のスーツケースを有効利用だ。
マクシミリアンは黙々とスーツケースにワインボトルを詰めだした。パッキングが済むと、机の下に潜って何やら操作をする。
パカッ。
軽い音を立てて床が開いた。
所長室に金庫なら当たり前の発想だが、所長室に台所なみの床下収納があるなどとは誰も思うまい。
作ってみたのはいいが全く使う機会のないそこにスーツケースを滑り込ませて、マクシミリアンは元通りに蓋を閉める。
するとそこは何の変哲もないただの床に戻った。
「飲めるものなら飲んでみろ」
両手をはたき、唇の端で笑む。一仕事終えた満足感とはかくも気持ちのいいものか。
――さて、サーモンピンクのところにでも行くか。
ひとりごちて、マクシミリアンは足取りも軽く所長室を後にした。
ところ変わって。
「ターダーイーマー」
がっこんがっこんと不思議な大音量をBGMに、黒い影はその部屋のドアを開けた。
「タダイマ帰りマしたよー善い子デおるすばンしてまシタかー」
「煩い」
ただいまと呼び掛けられたのは、白衣を着た、綺麗な水色の瞳を持った少年だ。しかし少年の口から出たのは「お帰り」の一言ではなかった。
「今何時だと思っている。近所迷惑だ」
「ソ毛なこと言ワれたって、ワタクシ今日任務でお出かけで死タもん。遅くなるのアタリ前ー」
黒い振袖を着て独特の訛りで喋っているのは――もちろん件の振袖美人。
「それよりコレ見テください!」
そう言って、振袖美人は引きずってきた大きな薄汚れた物体を差し出した。
ガコン、と硬質の大きな音を立てて謎の物体が転がる。
「僕の部屋にゴミを持ち込むな」
「ゴミと違いマス! お宝でス!」
コレ引きずって階段上るノ、大変ダッタのにィ。
冷めた一瞥をくれた少年に、振袖美人は説明を始めた。
「ホワイトデーの稼ぎ時にオ仕事なんてワタクシついてなーい思ってたで酢ガ、大収穫がアリました!
行き先が佐倉さんチの研究所跡地に近かったんで、帰りにヨリ道してきたトですよ。そ死たラこれ発見! 戦利品! ジャなかっタ出土品!!」
振袖美人は誇らしげにない胸を張った。
「お前はなんでそんなところへ行ってるんだ」
「何でって…マクシミリアンシュナイダーのヘソ栗でも落ちてないカナーと思って?」
ちょっぴり汗をかきながら振袖美人が言う。
少年は明らかに何かを疑う目で振袖美人を睨みつけた。
「最近は以前に輪をかけて不審な行動ばかりしているじゃないか。今日こそ素直に吐いたらどうだ」
「そっ、そんなのはドゥーでもいいトですよ。それより中身見てくだサイ中身!」
よいっショ、と掛け声をかけて振袖美人が足を上げた。焦ってガスガスと物体を蹴り上げる。
ガコッ。
砂埃を上げて物体がふたつに割れた。いや、蓋が開いたと表現するのが正しいだろう。埃にまみれて気がつかなかったが、大きな謎の物体は、蝶番で開閉される鞄のようなものだったらしい。
中には、色あせたラベルのついたガラスのボトル。
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