collabo 011 2/2
「ジャジャーン。なんとワインで酢〜♪
しかもナンでしたっけ…? ボル…ボ…ボルテージ? とか言うですよネ? 年代ものだと価値がドドーンババーンと上がるヤ・ツ♪」
目ン玉かっぽじってヨーく見るがいいノです!! 幻の3000年モノですヨ!! これは高く売レますヨ!!
「目玉をかっぽじったら見えないぞ」
それを言うなら「耳の穴をかっぽじってよく聞け」である。
少年は差し出されたボトルのラベルを、手近なテーブルの上にあった布巾で擦った。
掠れた文字は、なんとか判読できる程度だが。
『ボジョレー・ヌーヴォー2004』
「2004年?」
振袖美人の言い分とラベルの両方が正しいのなら、このボトルは本当に3000年以上前に仕込まれたことになる。
「ボルテージじゃない。それを言うならビンテージだ」
少年はボトルを持ち上げ、明かりで中を透かし見た。
「コルクが腐っているな。これでは開けられない」
「そうはイキません! 10本もあるンダから1本くらい飲んでから売っぱらッタってイーじゃないでスか!? 発見者の特権デスよ!!」
おしゃけ〜♪おしゃけ〜♪
抵抗されるのもなんのそので少年からボトルを奪い取り、振袖美人は何やら探し始めた。
「叩き割っタラ中身が零れてモッタイナーイオバケが出るんですヨ。だから焼いた火鋏で首を挟んだ後に――濡らしたニワトリさんの羽でやさスィーく撫でるノデす。飴と鞭で、腐ったコルクちゃんもワタクシの言いなり!」
ホら、ワタクシやっぱりテクニシャン☆
火鋏と羽ペンで見事にコルクごとボトルの首をもぎ取って、振袖美人は誇らしげに笑んだ。「ちょっと待て!」と遮ろうとする少年の手を、網から逃げる蝶さながらに優雅にかわして、
「イッキいきまス♪」
直接ボトルに口をつけて、ラッパ飲み。
ごっきゅごっきゅごっきゅごっきゅ…………
ごっきゅごっきゅごっきゅごっきゅ…………ウゲェェェ。
「おい…?」
先ほどの妖艶な笑みはどこへやら、振袖美人は盛大に口の中の液体を床に吐き出した。
「マズッ!! マズッ!! ナニこれアリえなイ〜〜!!」
ぺっぺっ、と半泣きで唾を吐く姿を、白衣の少年が目を丸くして見ている。
味オンチでしかも食い意地の汚い振袖美人が「マズイ」と言って吐き出すくらいだから、よほどマズかったのだろう。
振袖美人は手の甲で唇を拭って、滲んだ紅に驚愕した。
「しかもワタクシのふっクら艶プル唇が切れマシた! ドゥーすんですか今日はホワイトデーなのに! 仕込ミも万端で入れ食い状態ナのに、これじゃあチューもできませンよ!? ワタクシを生殺しにスるとデスか!!」
少年から見れば「自業自得」の一言で終わらせられる行動だ。八つ当たりもいい加減にして欲しい。
ウワァーンと泣き出した振袖美人を尻目に、少年は、ワインの入っていた鞄らしき入れ物を物色し始めた。残りの9本の中身を確かめる。
「100年も経てばワインの熟成のピークはとうに過ぎる。ほら見ろ、色も茶色にくすんで劣化している。アルコールどころの話じゃないな。ほとんど腐った水の状態だぞ」
振袖美人の胃袋なら大丈夫かと思うが、とりあえず胃薬でも処方しようか。そう思って鞄にボトルを詰めなおそうとして、少年は箱の底に小さな紙切れが入っているのに気がついた。
「…?」
「なんでスか、それ」
涙を引っ込めて、振袖美人が少年の手元を覗き込む。
3000年前のワインと一緒に入っていたとなると、この紙切れも3000年前のものか。こちらもかなり劣化して黄ばんでいる。
折りたたまれた紙が破れないように慎重に広げると、そこにはかすれていながらも流麗な文字があった。
『振袖へ 飲めるものなら飲んでみろ マクシミリアン・シュナイダー』
「マクシミリアン・シュナイダー?」
少年の眉がぴくり、と動く。
マクシミリアン・シュナイダーと言えば、件の佐倉大本営研究所の所長であった人物だ。
「お前、本当にあのマクシミリアン・シュナイダーのヘソクリを探しあてたようだな?」
しかも宛名が『振袖へ』ときたものだ。これが目の前の振袖美人宛てでないとどうして言い切れる?
「……」
険しい顔つきになった少年とは正反対に、振袖美人から表情が消える。
「いやですネェ。ワタクシそんなヒト知りまセんよ」
「台詞が棒読みだぞ」
しかし徹底抗戦の構えを見せる振袖美人を、叩けど突付けど何も吐きそうにないなと読んで、少年は別口から攻めることにした。
「知っているか? そもそもボジョレー・ヌーヴォーとは、フルーティーで若々しく柔らかな、季節の到来を感じさせるワインで…」
もくろみ成功。
少年の言葉は、ガシャンとボトルがテーブルに叩きつけられた音で遮られた。
「じゃあ100歳過ぎてるワタクシはカレカノ…違った枯れ枯れDEATHト!?」
テーブルに両手を付いて、振袖美人は少年の方へ身を乗り出す。
「何ゆうチョるね!? ワタクシ現役バリバリよ!? ゴールデンフィンガーを舐めんなデスよ!?」
全然全く趣味ジャないけど犯してヤろうかしらアノ三十路ー!!
不慣れな横文字まで使って怒り狂う振袖美人に、少年はもとの冷たい一瞥を投げる。
「その情操教育に悪い生き方を少しは改めろ」
iらんどの規制に引っかかるだろう、と眼鏡のレンズにかかった茶色い飛沫を白衣の袖で拭いた。
「さぁ、手始めに『アノ三十路』と何処で知り合ったのか教えてもらおうか?」
「……」
その夜、振袖美人はホワイトデーを謳歌するどころか、腐ったワインの林立する部屋でこってりと絞られた。
-fin-
reproduced 【NEW WORLD(仮)】
special thanks for 相沢友弘
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