collabo 014 2/3




「この子のプライバシーに関わる事ですので本名は明かせないのですが、仮名としてこの子をユニ君と呼びましょうか。年は16歳で貴女の研究所のアイリス嬢と同い年ですが、マクシムの若き日の過ちが産み落とした子だと考えれば実子としてつじつまが合いませんか?」
「でもこの子はアジア系じゃない。マクシムは典型的なドイツヨーロピアン系よ?ハーフだとしても髪の色が―――」
 言いかけてサーモンピンクはメンデルの遺伝の法則を思い出した。
 掛け合わせによって誕生するパターンは何十種類と合ったとしても、実際には血統的優勢種の特徴を色濃く継いで生まれて来る。
 そして、アジア系とヨーロピアン系での掛け合わせならアジア系の方が優勢種。黒髪の子供が生まれて来る可能性も高い。当時のマクシムの相手がアジア系女性だとしたら―――
「そう、御察しの通り相手の女性はアジア系。この子は基本的に母親の外見を多く受け継いでいます。しかし完全にアジア人かと言われるとそんな事もありません。
 例えばこの肌の色、日本女性の肌も白く透き通って綺麗ですが黄色人種特有の黄味掛かった肌色がこの子にはない。アジア人の虹彩の色は黒ないし茶色が基本とされていますが、この子の目の色は色素の薄いアイスブルーです。この一枚で完全なアジア人でない事が良く見てとれます」
「で、でもこの程度でこの子がマクシムの実の子である事は証明出来ないわ!!」
「そう、この一枚だけで証明するのは難しい。そこが問題なのですよ」
 男は写真をポケットに戻して話を続けた。
「私は実はこの子の母親と、ある企業の重役職から本当の父親を調査する為に雇われた探偵でしてね。
 母親はこの子を産む直前にマクシムを初めとする複数の男性と同時に肉体的関係を持っており、誰が本当の父親なのかが解らない状態なのです」
「じゃあこの子は完全にマクシムの子供じゃあないって事じゃない。さっきの思わせぶりな台詞はなんなのよ」
「そうとも言い切れないんですよ。話を最後まで聞いて下さい」
 カウンターから立ち上がりかけたサーモンピンクをなだめるように肩をたたき、なんとか腰を落ち着かせると男は再び話だした。
「実はこの子───ユニくんは大学院までを飛び級で卒業した俗にいう天才少年でして、現在はアメリカのさる研究企業に就職が内定されている状態です。
 これはそこらの男よりもマクシミリアン・シュナイダーの血を色濃く受け継いでいる証だと思いませんか?」
 たしかに見た目は母親の方の遺伝が強くても、中身の優秀さは確実にマクシムのそれを受け継いでいる。
「ついでにいうならユニ君はCSチャンネルのジャパニーズチャンバラドラママニアだそうです。
 貴女の恋人も鬼平半科帳が大好きですよね?再放送も毎週欠かさず見ている事は既に調査済みですよ」
 じゃあ、あの写真の子供は本当にマクシムの……?
「2人のゲノムは…DNA解析はすんだの?」
 なんとか理性を保ってサーモンピンクは声を振り絞った。
「いいえ。他の父親候補のDNAは入手済みなのですが、肝心のマクシミリアン・シュナイダーのDNAがなかなか入手出来ない状態でしてね。
 私自身も研究所に潜入して身辺を探ってみたのですが、髪の毛一本たりとも採取できない有り様で」
 秘研に潜入!?そういえば最近マクシムの周りで妙な噂がたっていた。たしか、あれは───
「まさか…まさか貴方が謎の振袖美人!?」
「最近ではそう呼ばれているらしいですね」
 男はクスっと笑ってみせた。
「目立たない研究員ではなく、敢えて奇抜な格好と道化の様な喋り方でうろついていれば、私の真の目的は誰にもわからないですからね。あの喫茶店も中継地店に使えて非常に便利でした。
 しかし、環境に恵まれていてもあの男のDNAはなぜか手に入らない。そこで恋人である貴女にこうしてお願いに来た訳です」
「つまり、私にマクシムの毛を採取しろという事ね?」
「流石は参謀女史、話が早くていらっしゃる」
 たしかに恋人ならマクシムも隙が出来やすいし、ベッドの上の抜け毛位取り放題だろう。
「しかし抜け毛だと少々心もとないですので、彼の毛を毟り取って下さい」
「へ?」
 サーモンピンクの目が点になる。
「もう一度いいましょう。マクシミリアン・シュナイダーの毛という毛を一本残らず毟り取って来て下さい」
 しかも男の台詞もさっきと微妙にちがっているし。
「DNA検査なら髪の毛一本あればもう充分なのよ?」
「ユニくん──いえ彼の子供の輝かしい未来の為です、お願いします」
 真摯な態度で頭を下げられると、矛盾しているとわかっていながら頷かずにはいられない。
 サーモンピンクがマクシムの毛という毛を毟り取るという極秘任務に承諾しかけたその時だった。

「無事かサーモンピンク−!!!」
 カンフー映画のごとく店のドアを蹴破り、鬼の形相で店に入って来たのはマクシミリアン・シュナイダー本人だった。
「あの振袖から『貴様の女は預かった』という不埒な置き手紙があったからあちこちさがしてしまったぞ!!
 無事か!?貞操は無事なのか!?」
 マクシムはサーモンピンクの腕を引き寄せ、その細い身体が折れんばかりに抱きしめた。
「えぇ、私は無事よマクシム…」
 恋人の愛の深さと逞しさに惚れなおしながら、サーモンピンクはマクシムの胸に顔を埋め、首に両腕を回した。
 さっきまで彼女の隣でウーロン茶を飲んでいたはずの男の姿はいつのまにか姿を消していたが、そんなことは彼女にとっては些細な問題だ。それよりもかんじんなのは───
「ところでマクシム…」
「なんだ、サーモンピンク?」
 彼女の美しい手は徐々にマクシムの金髪へと絡んでいく。
「16年前の貴方の女性癖について詳しく教えてくれないかしら!?」
 サーモンピンクの手はマクシムの髪をつかみ取り、そのまま髪の毛を毟り取った!

 小粋なジャズサックスにセッションするように、悲痛な断末魔の響くバーの片隅に脱ぎ捨てられたスーツ。
 そのポケットの写真の裏には『サーチゃんはマだ若いノで案外男に騙さレヤすいです』と書かれていたという…


 -fin-


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