collabo 032 1/1




『真夏の果実』1


 その朝、ゼノンが目を覚ましたのはピルム城内居住区棟にある自室の床の上。やけに鼻につく自分の汗の匂いの為だった。

 昨晩はたしか風呂上がりに夕食代わりの酒を煽って自作のつまみを適当につまみ、そのまま寝てしまったような気がする。
 その割にはやけに口の中が甘ったるい味がするのだが、昨日は甘いものでもたべたっけか。
 昨日の事をいちいち覚えているような脳をゼノンは持ち合わせていなかった。
 ゼノンはノロノロと起き上がると、テーブルの上にある食べたままの皿の類を片付ける。空になった皿は台所で水に漬け、残ったつまみは冷蔵庫に入れた。
 この冷蔵庫というのは古代文明時代に食糧貯蔵庫として作られたものらしい。
 何時だったかゼノンがアキハバラ遺跡に行った時に発掘しユニに復元してもらったのだが、収納も食糧の日持ちも通常出回っている貯蔵庫より何倍も高い所がゼノンのお気に入りだった。

 起き上がってテーブルを片して残ったつまみを冷蔵庫に入れる。これだけの単純な動作の筈なのに、今日のゼノンにはそれが随分な苦痛に感じられた。
 なんだかいつもより身体が重い。身体の節々───特に腰がひどく痛む。
 例えるならその痛みは、一歩あるく毎に腰の骨にヒビが入るような痛みだった。
 適度な運動は毎日しているから筋肉疲労の類とは思えない。だとしたら年令を重ねる事から来る関節痛か?
 年は取りたくないものだ。そんな事を考えながらゼノンは痛む腰を両手を当てて風呂場へと向かう。
 昨日きちんと風呂に入ったはずなのだが、今日はやけに寝汗をかいていたらしい。
 自分の体臭なのにひどく不快な汗の匂いを流すべく、ゼノンは脱衣所で今着ているシャツを脱ぎ捨て乱暴に脱衣カゴへと放り込む。
 ひどい寝汗のお陰で洗濯物が増えちゃったじゃないか、『清潔な水を余計な汗で汚すな』と変な理由でウンディー姐さんにクリーニング代を請求されそうだ。
 そんな事を考えながらゼノンがパンツに手を掛けている所で、ふと目の前の鏡の中に異変がある事に気がついた。
 鏡の中に映るのは脱衣所の壁と洗濯カゴ、洗濯用具一式。そこまでは昨日までと何ら変わりない。
 問題は鏡の中に映るその人物だった。

 まず白い上半身を露にした女性の身体が目に止まった。首筋やちいさなへその辺りにうっ血したような小さな赤い跡がたくさん散っているが、どこかにぶつけたりしたのだろうか?
 次に弾力のありそうな大きな乳房と、その中心にあるピンク色の小さな乳首を真正面から見てしまい、ゼノンは慌てて視線を逸らす。
 そのあと目に止まったのは、栗色の艶やかな絹糸を集めたような彼女の長く美しい髪。
 消して高くはないが真直ぐ筋の通った鼻、髪色とお揃いの大きな潤んだ瞳は長い睫毛に縁取られている。まばたきをしたら睫毛が揺れる音まで聞えそうだ。
 たまご型の輪郭に滑らかな白い肌。果実のように艶やかな唇。
 ネープルやシェラサの美しさとはまた違う、顔の造型だけでなく肉体的な美しさも持ち合わせた女性が鏡の中に立っていた。

 不可抗力ながら、見知らぬ女性の裸を目撃してしまった。
 本当は一言あやまった方がいいのだろうが、人間相手に下手に言葉を交わしたらあの女性が催眠状態に落ち入ってしまう可能性もある。ゼノンは一目散に脱衣所を逃げ出した。
 が、良く考えてみれば脱衣所……というかこの部屋に人間はゼノン1人しかいないはずだ。
 と言う事は鏡の中の女性は………まさか俺か!?
 ゼノンは今日初めて声を上げて視線を下に向けた。
 その巨大さ故に己の足元をも隠す2つの乳房が小さく揺れる。
 鏡越しにみるより迫力ある生の乳にゼノンは鼻血を吹いた。白い乳房に赤い鮮血のコントラストが生々しい。
 いや、おちつけ俺。これはきっとアレだ、シェラサのイタズラだ。
 子供から老人、美女から筋肉質の中年。化けられない者はないシェラサのあの変装技術ならば、寝ている間に部屋に侵入し、筋骨隆々褐色の肉体に銀髪剛毛のゼノンの全身に特殊な変装技法を施して巨乳美女にする事も決して不可能な事ではないだろう。
 そうだ、きっとそうに違いない。この巨乳だってきっと作り物で、引っぱればベリって剥がれる虚乳なんだ!
 ゼノンは自分に言い聞かせると、もう一度脱衣所の鏡の前に立った。
 ゼノンの黒いパンツをはいただけの栗毛の美女が、鼻血を垂らしながらこっちを見ている。
 ゼノンは意を決したように両手で自分の胸を包むとゆっくりと揉みしだき、そして力任せに引っぱった!
 だがゼノンがどんなに巨乳を揉んだりひねったりしても、その柔らかな乳房は2つとも剥がれるそぶりすら見られなかった。
 それよりも自分で揉んでいるだけなのに、身体の芯からジワジワと快感が昇って来る。
「ン…ァ……ァアン………」
 ゼノンの自分の声でない甘い嬌声が漏れ、ゼノンは慌てて乳房から手を離した。
 うっかり気持ち良かった事も勿論あるが、それ以上に驚いたのは自分自身の声だ。
 普段ロクに声を出さない為、ゼノンは自分自身の声がどんなものだったかあまり覚えていないが、すくなくとも自分の声はあんな高い声ではなかった。いまのはそれこそ女のようだ。
 ゼノンの頭に最悪の事柄が頭の中を駆け巡る。
 まさかと思いながらもゼノンは不安で高鳴る胸を深呼吸で抑え、そして穿いていた黒のパンツを下着ごと一気に降ろした!
 パンツの下でゼノンを待っていたのは、いつも見なれた自分の聖域ではなく、頭髪とお揃いの色のヘアに覆われただけの、なにもない股間だった………。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
 その瞬間ゼノンと鏡の中の美女の目から同時に涙が洪水のごとくあふれ出した。

 虚乳だとおもっていた乳は紛れもなく自分の身体の一部だった。
 朝、自分の身体が不自然に重く感じたのはこの無駄にデカい乳とケツのせいだ。
 自分の声の筈なのに、自分の腰に響く女のような甘い声。
 そして、ゼノンの最後の聖域喪失……。
 筋骨隆々、褐色の男らしいゼノンの身体は今、白くて柔らかくて綺麗な女性の身体に変わってしまった。

 28年生きていた身体が予告なく突然変貌したという事実に、ゼノンは泣いた。
 本当は脱衣所の隅でうずくまって泣きたかったのだが、この身体でうずくまると自分自分の柔らかな乳房の谷間に顔を埋める事になると気付くとそれも出来ず、ゼノンは狭い脱衣所の真ん中で全裸で泣き続けた。


 to be continued...


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