collabo 034 1/2
『真夏の果実』3
ジェラとゼノンは特殊部隊の上司と部下という関係でもあったが、それ以前に10年来の友人関係でもあった。
生まれた時から王族暮し、望めばどんな贅沢も思いのままのジェラだがどう言う訳だか庶民の生活と粗食をこよなく愛し、時折ゼノンの元にこうして前触れなく訪れてはゼノンが作る有り合わせの食事を美味そうに喰らって帰るのである。
今回は朝食でも食べに来たのだろう。いつもなら冷蔵庫の中身と相談して、ゼノンにもできる範囲で豪華な食事を作るのだが、いくらなんでも今回はさすがに間が悪かった。
見知らぬ女の身体と入れ替わったなんて事実を話してジェラに信じて貰えるかどうかもわからないし、仮に信じて貰えたとしても大笑いされた揚句に散々からかわれて終わる気がする。
なんとしてもこの場をやり過ごさねば。
ゼノンはとっさに身を隠せそうなスペースを探そうとしたのだが、
「ゼノンーお腹すいたんだけどー」
その前にジェラ本人と目が合ってしまった。
「うひぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ゼノンは奇声を上げると物凄い早さで後ずさった。
その拍子に後頭部を思い切りぶつけ、その痛みで思わずその場でうずくまった。
「え、えーと?」
驚いたのはジェラも同じだった。
何度も訪ねた事のある友人の部屋に友人はおらず、かわりにいたのは見知らぬ女性。部屋を間違えた覚えもない。
おまけにその女性は友人の服を着て、人の顔を見るなり異様な怯えぶりを見せる。
その行動は昔どこかで見たような気がするのだが…。
「まさかゼノンの彼女…とかじゃないよね? じゃあまさかあのヘタレ男のストーカーかな?」
「ちがうっ! 俺はヘタレなんかじゃない!」
頭を抑えたままうっかり即答してしまい、ゼノンはその場で青ざめた。
アホか俺は。聖域を失いこんな乳と尻だけしかないような情けない身体を自らバラしてどうするんだ。
だがそれと同時にゼノンにはまったく真逆の考えも浮かぶ。
ここで逆にジェラに涙ながらに訴えて信じて貰えばイロイロと力になってくれるかも知れない。
頭を打った事で涙はすでに出ているし、こんなのでもジェラは一応一国の主だ。
国を挙げてこの身体の持ち主───つまりゼノンの肉体を探して貰えば女一人で当てもなくあちこち彷徨うより、ずっとはやく発見出来る事だろう。
ゼノンは栗色の潤んだ瞳でジェラを見上げると、涙ながらに訴えだした。
「聞いて下さい陛下。こんな姿で信じられないだろうけど、俺ゼノンです!」
「ぜ、ゼノン!? なんだって急に…」
「俺だってそんなのしらない! 朝おきたら急に知らない女の身体と入れ替わってたんです!!
回復術も使えないし、こうして言葉を話しても陛下の目を合わせても催眠効果がちっともつかえないし、なにより精霊の姿が一切みれない。どう言う訳か知らないけれど今の俺はただの巨乳美女に成り下がってしまったんです!
俺自身も信じられないけど、でも俺はゼノンなんです信じて陛下!!」
ゼノンはウルウルした瞳でジェラに訴え続ける。その姿は白くて小さい黒目勝ちの子犬を連想させた。
「う〜ん、そうは言われてもねぇ。君がゼノンである証拠も何もないし」
ジェラは自分を見上げる巨乳美女を一瞥してから、考え込むようなポーズをとった。
「そうだなぁ…例えば私とゼノンしか知らないような秘密を挙げるとか…そうだ!」
ジェラはなにか悪戯を思いついた時の子供のような表情になった。
「せっかく食事の時間帯だし…それに相応しい格好で朝食を作ってもらおうじゃないか。君が本当にゼノンだったら……できるよね?」
ジェラは人の悪い笑顔を浮かべて、涙を浮かべる美女を見下ろした。
その口振りと表情でジェラの言葉の真意を悟ったゼノンは真っ赤になって立ち上がった。
「そ、そんなの出来ない! それにアレはもう封印したんだ、二度とやらない!!」
真っ赤になったのは怒りだけでなく、恥じらいの表情の方が強い。
今のゼノンはどちらかと言うと気の強そうな美女なのだが、それが少女のように恥じらわれると男として妙な征服欲に駆り立てられる。
「そんな事いってたら私は君をゼノンだと信用しないぞ?
それに不審者としてしかるべき機関に差し出す事だって出来る。
君に逆らう権利は存在しないんだ、条件がわかっているならなおさらね……」
ジェラは羞恥心を更に刺激するように低い声で囁いた。
「くっ、そこまでいうなら………用意するからテーブルに座って待っていろ!」
ゼノンは悔しそうに下唇を噛みながらクローゼットの前に走った。
長い髪を揺らして走り去るその後ろ姿を眺めてから、ジェラは堪え切れなくなったようにテーブルにつっぷして、声を殺して笑い出した。
一方のゼノンはクローゼットの奥から鎖でがんじがらめにされて簡易錠で封印された箱を取り出した。
その鍵はクローゼットと壁の間にある小さな隙間に隠されている。ゼノンは細い指で鍵を引っぱり出すと錠前の鍵穴にソレを差し込み、鍵が解除されたところで鎖を解いてフタをあける。
中から出て来たのは純白の絹と細かなレースフリルをあしらった女性向けのエプロンだった。
もう二度と身に付けないと誓ったのに…。ゼノンは溜め息と共に当時を振り返る。
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