collabo 036 1/2
『真夏の果実』5
城下町と称されている首都ピルミニアだが、王宮の正門を出てスグに街がある訳ではない。
もともと城は土を固めて盛り立てた人工の高台の上にに築かれている。ピルム城からピルミニアへ行くには正門から乗り合い馬車で坂を下り、野盗や魔獣避けの外壁を潜ってやっと内部へと入れるのである。そしてそれはどんな王侯貴族でも庶民でも変わりない。
そんなわけでゼノンも一緒に乗り合わせた客の反応にビクビクしながら馬車に乗ってピルミニアに辿り着いた訳だが
「よくバレなかった…」
「今の君は変わり過ぎてて誰も気付かないよ」
「そうじゃない!」
平然と答えるジェラにゼノンは声を荒げて反発した。
「あんたがだよアンタが! 馬車の中に俺でも知ってるような政界の重鎮だっていたのに、何で平然としてられたんですか! おまけにヒトの腰とか平気で撫で回して来るし!」
今のジェラは高価な礼服ではなく、黒のソフト帽を深く被って黒いフレームの眼鏡をかけ、キャメル色の皮ジャケットを羽織り、重ね着した白とベージュのシャツの襟元から黒革とシルバーで作ったネックレスをちらつかせ、色落ちした青のパンツとブーツを合わせてどこにでもいる若者に変装していた。
「本来私が外に出ようものなら大慌てで止めに入るあの連中だろう?
私も何度も会っているからそういう意味では私は彼らにバレているだろうね。バレバレだ。
でも今回は止められる訳がない、なぜなら私の隣に君がいたからね」
ジェラは意味深にゼノンの身体に視線を這わす。
「今回はおおかた『若い国王のお忍びデート』とでも思われているのだろう。
あいつら最近ヒトの顔を見るなり結婚しろ世継ぎを作れとソレしか言わないからね。この際得体の知れない女でも子を孕んでくれればイイって私の脱走を黙認してくれたのさ。よかったねぇジジイ共に花嫁候補として認められて」
「うれしくないっ!」
この男、絶対黙認狙いでセクハラしたんだ。ゼノンはワナワナと拳を震わせた。
「この際デートに見せ掛けて歩いた方がお互いにとって良いかも知れないね」
ジェラは自分の片腕をゼノンへと差し出した。
認めたくないが今のゼノンとジェラは端から見れば若い男女だ。腕を組んで歩いた方が傍目には逆に自然に見えるだろう。
ゼノンは不本意ながらジェラの片腕に自らの両腕を絡ませて歩き出した。
「とりあえず好きな店を巡ってみようか。後は広場に出ている出店なんかを冷やかして。
惣菜市場はやっぱ夕方のが賑わうかな? それとも食材市で買い物して夜は君が作ってくれる?」
通りすがりが聞いたら恋人同士のデートコースの相談にしか聞こえないような、そんな当たり障りのない会話でジェラはシェラサ捕獲の指示を出す。『好きな店』というのは勿論シェラサの好きな店のコトだ、間違ってもゼノンのではない。
「わ、わたしアクセサリーがみたいわぁ」
ゼノンも適当に相槌を打つが、平然と歩くジェラにくらべると気が気じゃない。
どうも道行く人全員から振りかえられて視線を向けられているのだ。
それは類希なる美男美女カップルに周りが見とれているだけなのだと、ジェラはともかく今のゼノンには知るよしもなかった。
シェラサはアクセサリーが大好きだ。
アクセサリー屋を数件回ってみたが、シェラサの姿は見られなかった。
「これなんか似合うんじゃないかな?」
ジェラはゼノンの耳元に淡いピンクのピアスを持って行く。ピンクサファイアとローズクォーツが細い鎖に繋がれて揺れる様がかわいらしい。
「あら本当に良くお似合いでかわいらしいわ。彼女へのプレゼントに如何ですか?」
「そうですね、彼女の為に誂えたようなピアスだから」
ジェラは店員の女性と雑談しながら財布を開く。
「あ、あの別に俺、じゃない私はプレゼントとかそういうのは…」
「あまり高価じゃないけど受け取ってくれる?」
ジェラはさっさと会計を済ませた後で、ジェラはゼノンの耳たぶにピンクのピアスを取り付けながら小声で忠告した。
「そろそろ何か買い物しておかないと逆に怪しまれてしまうだろう? 今の君は一言礼を言ってくれさえすればソレで良い。可愛い笑顔がついたら最高だ」
「あの、ありがとう」
両耳にピアスを付けてもらった後でゼノンはジェラを見上げてはにかんだように笑ってみせた。耳元のピンクのチェーンが可愛らしく揺れる。
「どういたしまして。では行こうか」
腕を組んで悠々と店を出る二人の後ろ姿を女性店員はうっとりとした様子で眺めていたのだった…。
シェラサは甘いものが大好きだ。
特にシェラサのお気に入りだと言われている、内装とウェイトレスちゃんが可愛い甘味屋に入ってみたが、ココにもシェラサの姿は見られなかった。
「おいしい?」
満面の笑顔でストロベリーパルフェのクリームをパクつくゼノンにジェラが尋ねると、ゼノンは感極まったように何度も何度も頷いた。
チェリルやシェラサにこういう店へ連れて行ってもらった事はあるが、ゼノンは堂々とパフェやケーキを食べる勇気がなかったという。
思えばゼノンはあんなごつい外見に反して甘いものや子供っぽいものが大好きだった。ジェラは以前にチェリルから『お子様ランチの旗目当てでランチに誘われる』と何度も愚痴られたことがある。
そのジェラの前には香ばしい香りを放つブラックコーヒーのみが置かれている。
「ジェラも一口」
ゼノンは長いスプーンでクリームをすくうと、おずおずとジェラの前に持っていった。
甘いものが嫌いと言う訳ではないのだが、ジェラはどうも泡立てたクリームというものが昔から苦手であった。
泡立てずに料理として使われるのなら生クリームも普通に食べられるのだが、ケーキやパルフェのようにフワフワと泡立てた生クリームばかりを山盛りにされたものを出されると、ジェラは時折どうしたら良いかわからなくなる。泡立てたそこにチョコレートなんか混ぜられたらもう最悪だ。
だが同時に他人の好意を無下にできる男でもなかった。それが例え中身がゼノンとはいえ綺麗な女性なら尚更である。
ジェラは目の前にあるクリームの乗ったスプーンを自らの口に含んだ。
牛乳と砂糖の甘味だけで旨味のない味が口一杯に広がって気持ち悪い。泡立てたクリームの触感がその過剰な甘味を更に悪い方向へ引き立てる。
「おいしぃ? ジェラおいしーぃ?」
一方何も知らないゼノンはパフェスプーンを片手に、栗色の大きな瞳でジェラの顔を無邪気に覗き込んでいる。
今のゼノンの可愛らしさと生クリームの甘ったるさに、ジェラは口元を抑えて悶絶するしかなかった。
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