order book 001 3/5
そこには、出かける支度をして満面の笑みを浮かべる人。
一瞬、私の願いが通じたかと思った。
テツは、すっかり用意をして今まさに出かけようとしていた所だった。
え、今まさに?
「ただいま、帰るの?」
「ああ、帰ってきて早々悪いけど、これからちょっと打ち合わせ」
夕べも打ち合わせ(と称した飲み会)だったんでしょ?
今日も打ち合わせ?
しかも、これから?
もしかして、誕生日のこと、すっかり忘れてる・・・?
「ちょうど会えてよかった。スープうまかったよ。ごちそうさん」
テツはちっとも悪びれる様子もなく、私の頬にひとつキスをすると玄関のほうへ歩いていった。
そして、靴べらも使わず革靴を履き、じゃまたあとでね、なんて言いながら片手を挙げてにこやかに玄関から出て行った。
私はその場に立ち尽くすしか法がなく、ドアがパタンと閉まると同時に目から涙がぽたんと落ちた。
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6月15日、午前1時。
皆と別れて真知の家に帰ってみると、もう最悪だった。
「ただいまー」と言ってみても、「おーい」と何度呼びかけてみても真知は俺に背を向けたままうんともすんとも言わない。
テレビでは外国のラブコメ映画が流されているにもかかわらず、見てるはずの真知は笑いもしない。
ただ、目のふちが赤くなっていたから、きっと泣いてたんだろう。
俺がいない間に何があったんだろう、話してくれてもいいのにと不思議で仕方がなかった。
そんな真知の態度に、俺のほろ酔い加減もすっかり醒めてしまい後に残ったのは安い日本酒を飲んだ後のような苦々しい風味。
あんまりいい気持ちではなかったから、とにかく何をそんなに怒っているのか悲しんでいるのか訳を聞こうと、やっぱりしつこく食い下がった。
「なあ、真知?」
ソファの上で真知は身動きひとつしない。
真知の後から呼びかけても埒が明かないと思い、正面に回る。すると、真知は横を向く。また正面に回る。また横を向く。そんな繰り返し。
何周かしてみたけど真知は意地を張ってしまったようでなんともならない。何かいい手はないものかと少しおどけて見せたりもしたけど、効果なし。
「なあ、一体何をそんなに拗ねてんだよ?」
俺のその一言は大ヒットだったようで。
くるりと俺の方を向いた真知は、目に涙をいっぱいにためながらたった一言「バカ」と言った。
バカ!? なんで俺、バカって言われなくちゃなんねえのよ!?
「バカって何」
「アホ」
バカの次はアホときたもんだ。次は何だ?! ボケか??
「ボケ」
ハイ、ご名答〜。
なんてくだらないやりとりを一人でしていると真知はまたくるりと向きを変えてしまった。
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