order book 002 1/1
『Welcome home!』
右に大きく湾曲した上り坂では、対向車線のヘッドライトが斜陽よりも鮮やかに目を焼いた。
堪えて細めた視線の先に、波状に連なるテールランプ。
僅かに合わないその点滅のタイミングが、ざわざわとひどく鼓動を乱す気がして、僕は大きく深呼吸をした。
はやく、……はやく。
それでも落ち着くはずなどなく、握り締めたハンドルに力が入る。
動き出した車列に押し流されるように、心までもが攫われて行くような錯覚。
小さな光がキラリと降り立つその場所にそろそろ君も降り立った頃かなと思うと、居ても立ってもいられない。
――そう思うのも、無理はないでしょう?
はやく、……はやく。
渋滞を抜けて橋を渡り、信号をひとつ曲がったところで、リリリリリ、と待っていた着信音。
制限速度ギリギリを示すスピードメーターの隣。小さなディスプレイの中の「calling」表示に、笑う君が瞬いた。
繋いだイヤホンから、僕を呼ぶ声の後ろに、BGM代わりの案内放送が聞こえる。
「…着いた?」
『うん』
「こっちももうすぐ着くから、少し待ってて」
『うん』
短い通話の、柔らかく甘い声の余韻が耳から離れなくて、心のアクセルはもう全開。
気を抜けば泣き出してしまいそうな高揚感がじんわりと景色を滲ませて、はやく・はやくと、そう脈打つリズムは高鳴るばかり。
この夜空の向こうに、窓の外に流れて消える街灯より、前を行くテールランプより、ずっと明るくてずっと眩しい光が僕を待っている。
すぐに迎えに行って、なにより温かなその笑顔を抱きしめなくちゃ。
はやく、……はやく。懐かしくて愛しい君を、この胸に。
想いは容易く距離を飛び越えて、もう君のそばにいるよ。
会えたら、一体なにから話そうか。
電話越しじゃ言えなかった積もる話もあるけれど、それよりも真っ先に、「おかえり」を。心から。
-fin-
Welcome home! dear ヒロコ
reproduced 【五鍵】
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