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『AIR MAIL』


 不思議と、ケータイのディスプレイに彼の名前を呼び出すことが躊躇われた。

 …何を、ここまで来て。

 こうしている間にも、きっと彼ははやる心を押さえながら制限速度ギリギリで―ううん、もしかしたら制限速度オーバーで車を走らせているかもしれない。

 ――ここに向かって。


 私はゆっくりと通話ボタンを押した。
 コール3回で、少しくぐもった彼の声。
 どんな映像より、どんな文章よりもこの身体に感じたかった、
 その声。

「…着いた?」
「うん」
「こっちももうすぐ着くから、少し待ってて」
「うん」


 短い通話時間を、今日ほど感謝した日はない。
 これ以上彼の声を聞いたら、きっと私は泣いてしまう。
 とめどなく溢れる涙を、自分ではどうすることもできなくなってしまう。

 だって、会いたかったんだから。

 電話やメールじゃ足りない。
 早く、とにかく早く会いたかったんだから。


 ねえ。
 あなたは今、どんな気持ちで車を走らせているの?
 こんなに待たせて、怒ってる?
 それとも。
 いつものあの笑顔で抱き締めてくれる?

 もう、どこにも行かないって、約束するから。
 これからもずっと、想いはいつも、あなたのそばにあるから。


 会えたら。
 あなたに会えたら、何から伝えよう。
 たくさんあって、あなたの顔を見たら何も言えなくなってしまいそうだけど。

 「ただいま」と、
 「ありがとう」は、
 ちゃんと伝えるよ。
 あなたが好きだと言ってくれる、
 笑顔と一緒に。


 -fin-


special thanks for ヒロコ@【五鍵】
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