order book 004 2/2
『共鳴』
夜気を震わせて、僕は最後にもう一度、君の名前を呼んだ。
だらしなく弛緩する身体を休めていても、どこかまだ満ち足りない気がして、僕は伸ばした腕に君を抱きこんだ。
顕になった耳朶のあたりは熱の名残で紅く染まり、いくらか湿りを帯びたまま。
潮が引いた後、穏やかに凪いで微睡みはじめるその意識を繋ぎ止めようと、僕は目の前の柔らかな肌を噛んだ。
「ん…ぅ」
小さく呻く君の声は、甘い。
それはまるで、口に含んだ途端にくしゃりと崩れる砂糖菓子。
自覚のない色香とその中毒性の高さに、僕はいつも翻弄されている。
何度も強請り呼ばせた名前のその音が、まだ僕の中で鳴り止まない。
だってそれは単なる名前でも音でもなく、君の唇から零れた僕を想うココロ、そのものだから。
だから――もっとずっと、響かせたくて。
「まだ、寝ないで」
緩慢にさまよう視線を捕らえて言えば、瞬きを重ねて潤む目に僕だけが映った。
そこには、思い出話の中の登場人物に嫉妬してしまったりだとか、そこに自分がいないことを寂しく思ったりだとかする、そんな余計な気持ちはいらなくて。
互いの本音が、素直な表情になる。
君も、君の目に映る僕も――だからこんなに、甘い顔をしているんだと思った。
応え合う言葉のほかに、唇から何を伝えようか。
応え合う想いのほかに、君に何を伝えようか。
触れた先から上昇していく体温が愛しくて、抱きしめた腕で全て包み隠してしまいたいとさえ思う。
このぬくもりに焦がれていたのが、遥か遠い昔のような気までしてくる。
懐かしく覚えている以上に君は温かくて、柔らかくて、甘くて――僕が覚えている以上に、これからも君は優しく僕を包んでくれるのだろう。
そう信じていられることが、とても幸せだと思った。
僕の名前のその音で、君が愛を響かせる。
君の名前のその音で、僕が愛を響かせる。
そうして過去と未来を確かに繋げるのは――囁く声で、上擦る声で、確かめ合って共鳴する僕らの今。
離れないと誓った今、ココロに愛は、鳴り止まない。
-fin-
reproduced 【五鍵】
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