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『FLAVOR』


 カフェは平日の昼間だけあってがらりとして、窓際の一番奥でカップルが何やら雑誌を読みふけっている以外にお客さんはいない。
 真知は俺の目の前で、二つ目のケーキにフォークをつき立てたところ。

 ―――それ二つ目だよねえ…太るよ?
 ぼんやりとお皿のケーキを眺めながらそんなことを思うと、俯いてそれに集中してた真知の目が眼鏡越しに上目で俺をのぞいた。
 ちょうど窓から入り込んだ日差しで、眼鏡のレンズがきらりと光る。
 うわ、やばい。心を読まれたか!…ということは、とりあえず念仏でも唱えてみるべきか?
 ―――観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時………なあんちゃって。

「…ふたつ食べちゃだめなの?」
「……い、いえお好きなだけどうぞ」
 真知は冷ややかな目で俺を見て、ふふんと笑った。
 眼鏡越しに「太るって言いたいんでしょ」と訴えているようだ。
 それでもお構いなく結局はケーキをふたつ平らげて、満足そうに珈琲カップを手に取る。
 男勝りな彼女は、何が起きてもどこ吹く風で、いつも余裕の顔をみせているのだが、時々こうやって珈琲カップを持って満足そうに緩ませる頬が俺にはツボだったりして。
 かわいいねえ?なんてうっかり口に出そうものなら、ムキになって突進してくる。
 それは明らかに照れ隠しなのだが、その顔もまたツボだったりして。
 真知はいつでも俺の思考をさらりと見抜き、そして先手を打ってくる。
 それから納得のいかない不意打ちを食らった俺の渋い顔つきを「その顔スキ」とさらりと言ってのける。
 参ったねぇ……
 ほらまたカップを持ったまま、俺の顔を盗み見て、にやにやしてるし。
 うあー観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時……ってもういい?

「雄二もケーキ食べたらよかったのに。糖分補給しないと頭回らないよ?」
「そうだけど、べつに休日まで頭使わなくてもいいし」
「ふうん? いいんだ?」
「……なにさ」

 だーかーらーそのにやにやした顔はなんだっていうんだ。
 どこまで俺の頭を覗き見るつもりなんだぁぁー。
 つまり俺は彼女をぎゃふんと言わせたいわけだよ。うん。
 カフェを出た路上でちゅーとかしてみるか。
 もしくは突然シリアス顔で「愛してるよ」とか言ってみるか。
 ……あー無理無理無理。
 そんなことしたらこっちが「ぎゃふん」
 うあーうあーうあー観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時…ってだからもういいか、それは。
 はあ………。

 真知がカップの珈琲をゆっくりと飲み干して、それから席を立った。
 俺は支払いを済ませてる間に、真知はまたカラフルなケーキの並んだショーケースに見とれているようだ。

「……買ってく?」
「うーん。雄二は?」
「いや、食べたい気分じゃないから1つも食べれない気がする」
「さっきコレとコレと悩んだんだけど、3つは無理かと思ってー…てへ」

 ………「てへ」って何?! ていうかその顔何?!
 もしや先手のぎゃふん?!
 それともこのままかついで走り去っていいってこと?!
 とりあえずこれを買ってくれってこと?! 買っちゃうよ? そんなのいくつでも買っちゃうよ?

「ストロベリーインペリアル、ひとつ」
 そこで明らかにひとり悶絶してる俺を横目に、真知はしめしめという具合でお持ち帰りひとつ。
 受け取った小さな箱を手に、にんまり満足顔。
 それからぐいっと俺の袖をひっぱって、何かと思いきや。
 カフェのお兄さんが、ありがとうございましたって言ってにっこり笑っているのにもかかわらず。
 不意をつかれた俺のくちびるぺろり。

 …ぎゃふん。


 -fin-


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