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『FLAVOR OF MALICE』


 窓から差し込む陽が心地よく、いつもより長めのまどろみは、突然寝室に侵入してきた掃除機に害された。
「邪魔ー!!」
 いつの間にか俺の隣から脱け出た真知が、掃除機に負けじと叫んだ声が頭に届いたと同時に布団を剥がされる俺。
 寝ぼけた頭でかろうじて起き上がり、足元に襲い掛かる掃除機を避けて、リビングのソファに移動しようとしたのだが、その目論見はあっけなく遮られ、布団をベランダに運ぶように命じられた。
 しぶしぶそれをベランダへと運ぶと、ようやくたどり着いたソファには、床に転がっていたモノがすべて載せられている。
「あああー」
 仕方がないので、布団のなくなったベッドにもう一度ダイブしてゴロゴロ。
 掃除機の音と混ざりながら微かに聴こえてくる真知の意味のわからない鼻歌を聞きながら、俺はもう一度まどろみの中へと入り込んだ。

 気がついたら、東側に面している窓に差し込んでいたはずの陽は、位置を変えてしまっていて掃除機の騒音もない。
 今度はすっきりした頭でリビングへと向かうと、真知の姿もない。
「あらら」
 どこいったんでしょうかね。
 置手紙もなければ、真知の携帯すらここに置き去りになっている。
 部屋はすっかり片付いて、開いた窓から吹き込む風がカーテンの裾を躍らせ、その横にある観葉植物の葉もさわさわと揺れている。
 時計は11時前。
 とりあえず、と思いながら顔を洗い、着替えを済ませたところで玄関ががちゃりと開く音がした。

「起きたー??」
 ソファで新聞を開きかけた俺は、真知の姿よりも先に彼女が手にしている箱を確認してしまった。
 それって、いつものカフェのケーキの箱じゃないですか。
 まさか、それ今から食べるっていうんじゃないでしょうね?
 さっきと同じ意味のわからない鼻歌まじりに、真知が淹れてるのは珈琲で、かちゃんと音がしたのはぜったいにケーキを載せるお皿の音だ。
 まじですかー。
「食べよー」
 と呼ばれたテーブルに、並んだのはやっぱりあの店のケーキ。
 寝起きでこれか。
 本当にコレか。
 俺はまじまじと真知を眺めて「おまえさん、太っただろう」と言ってみた。
 すると真知は、一瞬だけ俺を凝視して「………てへ」と変なポーズを取ってみせる。
 そんなやり取りをしてる間に、真知はひとつ目のケーキを平らげて、まだいくつか入ったケーキの箱に手を伸ばした。
 俺は向かいに座る真知の方へと回り込み、腰辺りを突っついてみる。
「ちょっと確認のため触らせ…」
「うぎゃッ! くすぐったい! …もひとつ一緒に食べよ?」
 もうひとつってアナタ、俺まだ食べてませんけど?
 それに寝起きでケーキってのはどうかと思いますが。
「それよりこっちの方が食べたいのですが? できればクリームをここに……」
 そう言いながら、俺は真知が着ているキャミソールの下から指先を少しだけ侵入させてみたりして。
「あほか!!」
「あほって…いや、切実に…これはそそる、ぞ?」
 甘いならこっちのがいいってだけの話ですけどねえ?
「じゃあ…あたしにもやらせて?」
 は!?
 と思ってる間に俺の着ていた服の裾はがばっと捲られてお腹も出ちゃって「あほか!!」と言いながら自分の椅子に戻るとすかさず「どっちがあほだ!!」と言われる始末。
 というか、あほはどっちでもいいが、寝起きでケーキ食べさせるのはやめてくれ。
 ……けどそんなこと言ったら、寝ていた俺が悪いって話になるのだろうな、うん。
 ま、いいや。
 そして俺は、結局真知と同じくふたつを綺麗に平らげた。




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