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『24時05分』


 明日は私の誕生日だ。
 一足早く、なんて言ってプレゼントを貰ったり、
 職場の同僚にゴチになったりして
 ちょっとほろ酔い気分で家に帰ると、なぜか玄関前に彼がいた。
 しかも田舎の不良のように座り込んで。

「…雄二、何してるの…」
 質問とも独り言ともとれる私の呟きに、雄二は
「どっこいせ」と腰をあげて言った。
「真知、遅いぞ。何時だと思ってんだ」

 私は一瞬、目眩がした。
「何お父さんみたいなこと言ってんのよ」
「そんなこと言ったって、俺がここで何時間待ったと
 思ってんだ。恥ずかしいやらしんどいやら」

 じゃあメールの1本でもくれればいいのに。
 そうしたらあんなにのんびり飲んだりしないで、
 すぐさま飛んで帰ったのに。
 まったく雄二は、…そういうところが雄二らしい。

 私は家の鍵を開け、電気を点けて靴を脱ぐ。
 靴を揃えようと振り返って、雄二に言った。
「…で、今日はどういったご用事で」
「うむ」
 雄二は靴を脱いで、なぜか私より先に部屋に入る。
 ソファにどっかと腰を下ろして、近所迷惑にならない
 程度に声を張り上げた。
「6月14日0時ちょうどに、真知におめでとうを言う」

 …え?
「まさか、それだけ?」
「それだけ」

 時計を見ると、あと5分ほどで日付が変わろうとしていた。

「プレゼントとかは?」
「…それはまた後日」
 いや別に欲しいって言ってるわけじゃなくて。
 ただおめでとうを言うためだけに来たの?

「…ん?」
 穴が開くほど雄二の顔を見ていた私に気が付いて、
 雄二は私の顔の前で手をひらひらさせた。
「おぉーい真知、生きてるか」
「生きてるけど、呆れてる…」


 ただそれだけのため。
 ただそのひと言のため。

 世の中には不思議なこともあるものだ。
 こんな私のために、ただおめでとうを言うために
 家まで来てしまう恋人がいるなんて。

 自分がこの世に生を受けた日を、
 こんな風に待つ人がいるなんて。


「ぬぉわっ」
「なっ、何!?」
 雄二の雄叫びで現実に引き戻された私が見たものは―

「12時過ぎちまった…5分も…」
 そう言って心底落ち込む恋人の姿だった。


 -fin-


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