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『FLAVOR OF LAST NIGHT』


「ぽいぽいぽぽ〜いぽ〜い」
 朝日がちょうどまぶたの上に射し込んだ熱と、ちかちかと揺れる影に無理やり目が覚めた。
 例によって、また真知の声が奏でる意味不明な歌が聞こえる。
 身体を起こすと、意識の奥がくらりと揺れて、こめかみあたりでどくんと波打った脈が痛みを呼んだ気がした。

「―――…んあ! 思い出したぁー!!」
 昨夜はふたりして、前祝と称し、日付が変わる前からすでにべろんべろんだった。
 カラになった瓶と缶の転がった床を、ようやくぼやけた頭が思い出し始める。
 俺は慌てて立ち上がろうとして、それから思わず動きを止めた。

 え……なんで俺はハダカなんでしょうか。
 まーさーかー、記憶にないけどあんなこととかこんなこととかしちゃったのかー!!
 だ、だ、だ、大事な日な、の、に?
 血の気が引いた気がしたのは、二日酔いのせいかハダカだからか何なのかはわからない。
 で、俺のプランはどうなった?
 一晩中ぎゅっと抱きしめて眠るとか、愛してるって、アイシテルって、言うつもりだったんだー!! とか?
 …ね?
 ま、いいか。
 いや、よくない!!

「けーきー!! ケぇキッ!! ケーキーッ!!」
 ぶつぶつと裸の大男が唸っているところへ、ドアがばーんと大きく開いて、妙な奇声を発しながら真知が入ってきた。
「………」
「………雄二はなぁんでハダカだろうねー?」
 向かい合った視線をほにゃーっと緩ませて、いたずらに笑った顔が俺を覗き込んだ。
 ベッドサイドの出窓に置いてある小さなハイドロのオリズルランまで、同じようにへにゃりと笑いながら揺れた。

 からりと青い空、今日は天気がいい。
 今年もおまえさんと一緒でよかったな、と取りえず俺はその笑顔に絆される。
 ―――今日は真知の誕生日だ。

 そして今日は年に一度だけそれが許される日、らしい。
 そう、アレが。
 彼女の好きなアレを、ホールでいただくことが許されるのだそうだ。
 毎年、いつものあのカフェで、俺たちはホールのケーキを突く。
 また太るつもりか?
 と、その言葉は今日はなしにして。
 いつも食べてるんだから、そんな特別でもないだろう?
 と、それもまあいいとして。

「支度してー」
 真知に連れられて向かったリビングは、昨夜の残骸はひとつ残らず片付けられていた。
 俺は彼女の頭に掌を掠めてから、顔を洗うため身支度を整えるためにバスルームへと入った。

「な、な、な、ななななななんじゃこりゃー!!」
 寝起きの顔が洗面台の広い鏡に映され、しばらくぼーっと自分を眺めた俺。
 気がついたそれを見て、とりあえず発狂。
 後ろから覗いている真知の顔が、にやりと楽しそうに笑っている。
 俺の鎖骨の下にはくっきりと真知がいた。
 真っ赤に膿んだような色で、くっきりとその場所を占領している。
「おまえさん……これはいったい…」
「だって、雄二が何してもいいって言ったもん。何度も聞いたよ? ホントにいいのかって」
「なにしてもイイってアナタ…」
「おーぼーえーてーなーいーのー?」
「は、いや、その、う?」
 そんなこと言ったか、言ったような気もするし? 言ってないような気もするが?

 丸首のTシャツを選んで、俺はそれを着ることにする。
 リビングに戻ると、窓の前で外を眺めている真知が背中を向けている。
 髪を留めているクリップが日差しにちかちかと光って、俺はその眩しさに目を細めた。
「隙あり!!」
 背後から忍び寄って抱え込んだ腰を持ち上げて、俺は真知をひょいと担ぎ上げた。

 仕返しは愛情をたっぷりと、な?
 もういらないとか言わせません。
「はぎゃー」
 置いてある新聞を足で払い落として、リビングのソファへと真知を降ろした。
 黒のキャミソールの胸元を指先で軽く下げて、そこにくちびるを這わせようと思った、が。

 そこには俺がいた。
 俺の鎖骨下とまったく同じように膿んだような赤色で、くっきりとそこには俺がいた。
「てへ」
 真知の少し照れた顔を見て、俺は思わず吹き出した。
 それから、耳元へとくちびるを這わせる。

 ―――おめでとさん。

 来年も一緒に、ホールのケーキ食べに行こう、な?
 って、また今日も寝起きでケーキですか……―――ぎゃふん。


 -fin-


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