order book 020 2/2
「んなっ!?」
『俺はきみがスッピンだろうと寝起きだろうと会いたいし、そばにいたいから、今からそっちに行くから』
「ちょ、ちょちょちょっと何、ちょっと待って!」
『実はもう下の駐車場にいるんだよね。
階段1段ずつ飛ばして上って行くからね、今度は5分もかからないよ?』
じゃあね、って悪戯っ子な目が笑って、また電話が切れた。
…今からそっちに行く、って。
「どうしよ…」
どうしよどうしよ、なんて言ってたって時間が止まるわけもないので、私は妙に冷静な頭と混乱する頭をなんとか制御して、とりあえず玄関へ走った。
だって嬉しくないはずないでしょ。
完璧じゃないメイクも気の抜けたキャミソールも、足元だけいつものサンダルでバランスが悪くても、階段を駆け上る足音が聞こえてきたら、全然気にならなくなった。
彼の気配がだんだん近づいて、私はどんどんドキドキしてくる。
――彼はいつだって積極的で魅力的で、私の都合なんてお構いなしに情熱的。
そう、私はいつだって、悔しいくらい彼に振り回されて翻弄されてる。
「…よっ、と」
最後の1段を上り終えて着地したスニーカーが、なんだかスローモーションみたいに見えた。
少しだけ息を上げた彼がパタンと携帯を折りたたんで、どうしたらいいのかわからなくて立ち尽くしている私に近づいて、開きっぱなしの私の携帯も同じようにパタンと折りたたむ。
「下にいるならいるってはじめに言ってよ…」
脱力した私の声はとても小さかったのだけれど、彼はちゃんと耳に拾い上げて、その柔らかな声で「ん」と頷いた。
電波越しでない彼の声は、黄昏に移ろう時間にとてもよく似合っていて、心地がいい。
「突然チャイム鳴らしてやろうかとも思ったけど、突然だとやっぱりビックリするし、ちょっと迷惑でしょ?
恋人とはいえさ、そういうのはエチケットとして大事かなーと思って」
だから電話した。
そう言った彼の携帯と私の携帯に、デザインの違う、でもお揃いのストラップ。
――魅力的なのは誰なのか、私はこれ以上ないほど身をもって知っている。
夕陽はもう沈んだのにブーゲンビリアの色をしたままの彼が眩しくて見ていられなくて、私はまた目を伏せた。
不意に抱き寄せられて、私までブーゲンビリアの色に染まる。
それはとても魅力的な恋の色で、私はまた――私を包むその腕に、敵わない程捕われた。
-fin-
reproduced 【五鍵】
special thanks for ヒロコ@【五鍵】
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