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『恋の花』


 全力疾走の後のような息苦しさと、
 頭の芯まで痺れるような甘美な痙攣と、
 そして緩やかに流れゆく満ち足りた時間とが僕らに交互に訪れる。
 それは灯りの下であったり厚い雲の向こうの月明かりも届かない深い闇の中であったり、
 何度も、何度も、
 その神秘に導かれて満ち引く潮のように訪れた。

 何度も、何度も、
 きみの愛を確かめる。
 その存在を確かめる。

 滴り落ちる汗を拭い、
 それがきみをも濡らしたことに気付いた僕は
 自分の汗を拭ったのとは反対の手で、それを拭った。
 きみの身体をなぞる僕の手も、
 撓りを緩めたきみの身体も、
 ついさっきまでの熱をしっかりと抱き込んだままで、この夜に浸る。


 どんなに離れていても、
 顔が見れないことを不満に思ったりしていても、
 この熱を身体じゅうで感じてしまえば何もかもが蒸発してしまう気がする。
 それは例えば些細な諍いに傷ついた瞳。
 時に鋭利な刃物になってしまう言葉。
 赤く染まる頬に隠れてしまう本音が聞けない不安に、
 テレビ電話の代替画面の向こうのキャラクターの、そのまた向こうに封じ込められた素顔が見えない不満。
 でもきみに抱きしめられてしまえば……
 1分1秒でも長く会いたい、声が聞きたいと絶えず波打ち僕の身体を支配して止まないその声で、
 ついさっき
 ――撓る身体をコントロールできぬまま最後にころりと零した涙なんかと一緒に、
 きみはそれをとても簡単に安堵に変える。
 どれだけの時間と言葉を重ねても伝わらない特別な感情を、
 その瞳から、手から、唇から、身体じゅうで僕に伝えてくれる。

 僕は意識を手放してしまったきみの耳や指や首すじに舌を這わせた。
 結局、僕にとってはきみの全てが魅力に満ちていて、
 その全てが愛しくて、
 その全てが欲しいんだ。
 こんなにも激しく、こんなにも狂おしく、
 強かな計算も相手の都合も何もない、ただまっさらなココロが求めるままに。
 細く柔らかな髪の毛の1本から、小さな足の爪まで、
 きみを形づくるもの、全て。
 そう、きみの何もかもを――この僕の腕の中に。

 カーテンの隙間から僅かに入る光を受けて、
 きみの携帯のストラップがキラキラと瞬いた。
 ブーゲンビリアの花びらの形をしたストラップ。

 ――あなたは魅力に満ちている
 その花言葉が、きみのためでも僕のためでもなく、
 僕ら2人のための言葉であるように。
 お互いがお互いのために、
 魅力に満ちた存在であり続けるように。
 僕はきみのために、
 きみは僕のために。
 いつも鮮やかに咲く互いの花を愛でることができるように。

 情熱の色をした花びらのような痕を、
 どうしても、今日のきみに。
 その鮮やかな恋の色を、
 どうしても、今日のきみに。
 繋いだ場所から願いをかけて、ずっと、こうしてきみのそばに。
 外からは見えないけれどはっきりと感じられるその場所に、
 僕はゆっくりと唇を滑らせた。

 溢れてやまない愛しさは、ただきみだけのためにある。


 -fin-


special thanks for ヒロコ@【五鍵】

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