order book 032 2/2




 かゆくもない頭を掻いていると、洗濯機が聞きなれた電子音で作業完了を知らせた。
 雨に濡れたお前の服と、お前のせいでぐしゃぐしゃになった俺のシャツ。
 試しに窓を開けてみると、いつの間にやんだのか、雨上がりの澄んだ空気がベランダでそよいでいる。
 雲の隙間から星ものぞいているから、明日は久しぶりに晴れるかもしれない。
 裸足でベランダに降りると、ふいに背中に冷たくて温かいものが触れた。

「……」

 俺のシャツと、それより小さいお前の服が、並んで干されたうちのベランダ。
 その下では街灯に照らされた雨粒がダチュラの葉先できらめいていて、風にその甘い香りを乗せている。
 泣くための場所として俺を頼ってくるお前なんてのは、この三十何年の付き合いの中で初めて見たんだ。
 お前のために率先して家事をこなそうだなんて思えるくらいの感情を、この雨はもたらした。
 面目ない男だけど、そこんところは、ちょっとくらい評価してくれてもいいと思う。
 だから今夜遅くの洗濯機の音は大目に見てやって――なんて言っても、もう、水音は止んだんだけど。

「なに、まだ泣き足りねぇの?」

 背中から腕を回して抱きついてきた、乾ききらない濡れ髪と、俺のシャツを羽織っただけの体温。
 ――こうして明ける夜の、代わり映えのしない幸せを手に入れるのが夢だったんだ、って。照れくさいからこれは言わないけどな?
 雨雲の隙間からのぞくものが俺を望む目だと根拠もなく確信して、自惚れる俺はゆっくりと振り向いた。


 -fin-


reproduced 【OPEN THE DOOR】

special thanks for 梛葉@【OPEN THE DOOR】




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