order book 034 1/1
『あなたを待つ春月夜』
今日は寒い日だ。
風は強いしおまけに雨まで降ってきた。
仕事が終わったら真っ直ぐ家に帰るつもりだったけれど、傘を差しても吹き込んでくる雨に根負けして雨宿りしていこうと思いついた。
こんな日はぬく〜い飲み物が恋しい。
いつものお店へと歩を早める。
寒い寒いと呟きながら階段を駆け上がる。
外から来る冷気を塞ぐようにドアを勢いよく閉めた。
当然ながらその衝撃でドアは騒々しい音を立ててしまい、店内にいた人たちの視線が集中する。
…うぅ、注目されてしまった。
すみませんと軽く会釈するとお客さん達はそれぞれの世界に戻っていった。
私もその中に埋没すべく、奥のテーブル席へと腰掛ける。
人目につきにくく、店内を自然と見渡せるこの位置がお気に入りだ。
注文をとりに来たマスターに、やっちゃったね〜と笑われてしまう。
話を変えてしまえとばかりに、これ貢ぎ物ーと店に来る前に買ったブツをマスターの手のひらに乗せた。
ファンシーな紙袋を首を傾げながらマスターが開けると、毛糸で編まれた小さな猫のキーホルダーが出てきた。
金具の輪っかには『防犯ブザー』と書いたシールが付いている。
礼を言いつつも不思議そうに手のひらに乗ったネコを見てる。
「昨日、表通りのケーキ屋さんに強盗が入ったんだって。でも防犯ベルを鳴らしたら逃げ出したっていうから」
この店、そういうのなさそうだし。
「ウチ、セコム入ってるよ」
「えぇ?!」
「ドアの上にセコムのシール貼ってあるでしょ」
いやいや目線高いとこは見ないから気づかなかったよ。
意外そうに目を見開く私が面白かったのか、マスターがふふんと笑う。
「カラーボールだって置いてあるもんね」
「でもマスター当てられなさそう」
うなだれるマスターに
カフェオーレが 飲みたいの♪あとはタルトが欲しいのよ♪
と歌いながら注文する。
飲み物が丁度よく温くなるまで、タルトを先にいただく。
窓の外を眺めたけれど、ガラスにくっついた雨粒が店内の光を反射してここからはよく見えない。
………しばらくマスターと歓談していたらラストオーダーの時間になっていた。
会計を済ませるとマスターがドアを開けてくれる。
「明日はもっと寒くなるんだって」
気をつけて、と見送ってくれた声を受けて外に出る。空を見上げると雨は止んでいた。
強い風が雲を流してくれたらしい。白い月が輝いてる。
満月まではもう少し。
膨らみかけのお月様は、明日はいいことがありそうなそんな気にさせてくれる。
宵待月の空を見ながら歩いて帰るとしましょうか。
-fin-
special thanks for メイ。
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