order book 037 3/3
それから。
俺達は付き合い始め、お互いのことを知っていくようになり。紗知恵が初めて俺にケーキを買ってくれたあのカフェにも足を運ぶようになり。
あの雨の日に見かけた女性はカフェの店長だそうで、遊びに行くと、時々紗知恵を冷やかしている。そして俺は、まんまと俺を紗知恵にはめた悪友たちに冷やかされている。
少しずつ何かが溶け合い、混ざり合うように、俺と紗知恵との気持ちの程度も、クリームが描くマーブル模様のように混ざり合っていくようだった。今は、彼女が居ないことの方が考えられない。
もちろん、違いもあれば共通点もある。互いが違うからこそ、磁石のように引き合っているのかもしれない。
「もおぉ、遅い! 女を待たせるなんて…ね? マスター」
いつものカフェに入った途端、紗知恵は俺にそう言った。そんな俺を見ながら、店長は赤い細フレームの眼鏡を指で上げてやんわりと笑う。
「これでも急いで来たんだぞ!」
傘をたたみ、彼女の隣へと腰かける。彼女は鞄からハンカチを取り出して、自然な動きで俺の袖についた雫を拭いた。
つられて視線を落とすと、彼女の靴の先で雫がきらめいているのが見えた。…室内で待っていたなら、乾いているであろう雫が。
嘘つきが――
大方また入口の脇で、雨の香りをまといながら佇んでいたのだろう。
俺は紗知恵の脇に大仰に跪きポケットからハンカチを取り出すと、呆気にとられる紗知恵の靴の雫を拭いた。
「!?」
赤くなった紗知恵を店長がいつもの調子で冷やかしている。俺はそれを横目に眺めながら、紗知恵の髪をくしゃりと撫でた。
今日も雨。もしかしたら明日も雨かもしれない。
それでも俺を安らぎへと導いてくれる人がちゃんといるから……雨も悪くないかもしれない。
梅雨の切ない香りは淹れたてのコーヒーの香りに消され、温かな甘さに潤されながら今日も1日が過ぎてゆく。
あれから、そしてこれからも。俺の隣には紗知恵がいる。
-fin-
special thanks for 蓮花@【natural】
plan and scenario : 蓮花
scenario : 真知
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