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 それから。
 俺達は付き合い始め、お互いのことを知っていくようになり。紗知恵が初めて俺にケーキを買ってくれたあのカフェにも足を運ぶようになり。
 あの雨の日に見かけた女性はカフェの店長だそうで、遊びに行くと、時々紗知恵を冷やかしている。そして俺は、まんまと俺を紗知恵にはめた悪友たちに冷やかされている。
 少しずつ何かが溶け合い、混ざり合うように、俺と紗知恵との気持ちの程度も、クリームが描くマーブル模様のように混ざり合っていくようだった。今は、彼女が居ないことの方が考えられない。
 もちろん、違いもあれば共通点もある。互いが違うからこそ、磁石のように引き合っているのかもしれない。

「もおぉ、遅い! 女を待たせるなんて…ね? マスター」
 いつものカフェに入った途端、紗知恵は俺にそう言った。そんな俺を見ながら、店長は赤い細フレームの眼鏡を指で上げてやんわりと笑う。
「これでも急いで来たんだぞ!」
 傘をたたみ、彼女の隣へと腰かける。彼女は鞄からハンカチを取り出して、自然な動きで俺の袖についた雫を拭いた。
 つられて視線を落とすと、彼女の靴の先で雫がきらめいているのが見えた。…室内で待っていたなら、乾いているであろう雫が。
 嘘つきが――
 大方また入口の脇で、雨の香りをまといながら佇んでいたのだろう。
 俺は紗知恵の脇に大仰に跪きポケットからハンカチを取り出すと、呆気にとられる紗知恵の靴の雫を拭いた。
「!?」
 赤くなった紗知恵を店長がいつもの調子で冷やかしている。俺はそれを横目に眺めながら、紗知恵の髪をくしゃりと撫でた。

 今日も雨。もしかしたら明日も雨かもしれない。
 それでも俺を安らぎへと導いてくれる人がちゃんといるから……雨も悪くないかもしれない。
 梅雨の切ない香りは淹れたてのコーヒーの香りに消され、温かな甘さに潤されながら今日も1日が過ぎてゆく。

 あれから、そしてこれからも。俺の隣には紗知恵がいる。


 -fin-


special thanks for 蓮花@【natural】
plan and scenario : 蓮花
scenario : 真知
copyright(c)2009 蓮花 and 真知 all rights reserved.




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