board meeting 005 1/1




『ミモザ』


 仕事を抜け出し、傾けたグラスの中で、ミモザが金色に輝く。
 ふたりだけのささやかな宴席は、今日という日を祝うためのもの。
「「2周年を祝って乾杯」」
 正直ここまで続くとは思わなかったけれど、などと会話を交わしながら、喉を過ぎる泡の心地よさに、暫し酔う。
 自分だけの力では、確かに続くはずもなかったであろうもの。
 それは、互いを必要とし、必要とされることで紡がれた奇跡。
 出会えたこと、手を取り合ってこれからも歩めることに、大きな感謝を。
 グラス越しの視線が優しく絡む。
「サー…」
 いつもの調子で呼びかけた彼が、ふと思い直したように口を噤んだ。
 特別な日には、特別な言葉がきっと、ふさわしい。
「紗嵐(さらん)」
 舌に乗せるのは、彼女が彼以外の他の誰にも許さない、彼女自身の本当の名。
 それは独占と優越の毒を孕んだしびれるほどの甘露で、彼をひどく惑わせる。
 呼ばれた彼女は、妖艶でありながら不思議と幼い印象を与える顔で、嬉しそうに彼に微笑んでみせた。
 ――そんな風に見つめられたら、もうどうしようもない。
 これからどれほどの時を共に過ごせるか、ともすれば永遠を望む心で彼はそう思う。
 この笑顔はもう忘れられない。
 この心に鮮やかに刻みこまれた、見つめるだけで何度でも恋に落ちるようなこの笑顔は――
「マ…」
 応えてこちらの名を呼ぶ彼女が愛しくて、強く抱き寄せる。
 宿木に選んだ花の芳しさに惑わされて、飛ぶことを忘れた鳥になろうとも。
 離れがたいと。この先もずっと共にあるようにと願いを込めて。
 君が最後の女性だと焦がれる吐息で囁いたなら、金色の、甘いキスを。


 -fin-


image song : The Gospellers 『ミモザ』




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