board meeting 006 1/1




『for you』


 去年は本命らしくGODIVAで攻めたけど。
 今年は?
 今年は――作ってみようかな?
 そう思ったのは、いつもの気紛れ。

 ケーキ屋さんやカフェみたいに、本格的なものではないけれど。
 生地にはオレンジピールとキュラソーで、彼の好きな柑橘の風味付けをして。
 仕上げに粉砂糖を少し振りかけたら、クラシックショコラの出来上がり。
 箱詰めしてリボンを掛けながら、そう言えば彼に食事を作ってもらうことはたまにあるけど、作ってあげる機会はあんまりないな、と思い返す。
 これからは、そういう時間も取れたらいい。
 ラッピングの完了したプレゼントを前に、今度は自分の支度をしよう。
 シンプルなチョコレートと一緒に、シンプルな気持ちを届けに行かなくちゃ。

 今日は合鍵は使わない。
 オートロックの玄関から、私だからこそ開けてもらえる鍵をひとつひとつ確かめて、あなたのところまで。
「いらっしゃい」
 何気なく目が合って、ふっと緩む表情が好き。
 珈琲を淹れにキッチンへ向かう背中を追う。
 すぐ傍に寄って、手際よく準備を始める手元を覗き込む。
「待っていればいいのに」
「うん」
 彼は、ざっくり編みのニットがよく似合う。
 寄り添えば肩に頭を預けられる、ヒールを脱いだ身長差が好き。
 背伸びをしなきゃ頬に唇が触れない、そんなもどかしさが好き。
 何を急ぐ必要もないこの部屋では、近すぎて、でも少し遠いこの距離感が、望ましくて嬉しい。
「ほら」
「ん」
 差し出された揃いのカップの片方を受け取る。
「ありがとう」
 意図することなく零れる笑顔が嬉しくて、ああ幸せだな、なんて実感。
 いつもの、わざと強く出て自分を守る必要は、ここにはない。
 虚栄を張る必要もなく、心を飾らずに傍に居れるのは、年の差からくる安心感かもしれないし、そうじゃないかもしれないし。
 もう、そんなことはどうでもよくて。

「好き」
 伝えたいのはそれだけ。

「知ってる」
 空いた腕に引き寄せられて、受け止められる。
 そこから降りてきて。
 背伸びをしなきゃ届かない身長差でも、あなたはちゃんと欲しい時に欲しいものをくれる。
 そこから降りてきて、軽く触れてくれるだけで、私の想いは報われる。
 ――ほら。
 チョコレートよりもずっと。
 あなたの方が、ずっと甘くて、ずっと愛しい。


 -fin-




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