board meeting 008 1/1
『RING』
初めて貰った指輪は、ブルーの可愛い石が付いたオモチャの指環だった。
自分ばかりが写っているアルバムを、大事に大事に箱にしまう。
家族が揃った写真は、写真立てに飾られて少し色褪せてしまっている。
押入れの整理をしていたら、昔懐かしいオモチャ箱が出てきた。
中には、見覚えのあるピンクの指環。
「懐かしいねぇ」
段ボール箱を抱えた父が、指環を手にした私を背後から覗き込む。
「覚えてるよ。縁日で『買って』って駄々こねたんだよね」
「そう。聞き分けのいい子が珍しくね」
「初めてお母さんの指環を見せてもらった後だったから」
「同じの欲しい、ってね」
二人で思い出して、少し笑う。
「でも、もう入らないね」
擦って少し綺麗になった指環は、かろうじて小指に入るサイズ。
「大きくなったからね。今は…7号くらいかな」
「そうなのかな」
「いつか他の男に持ってかれちゃうのかねぇ…」
「いつかね」
「お父さんと結婚するっていう約束は…」
「もう忘れた」
とたんに泣くフリをする父親が可笑しくて笑う。
「ああ、そうだ」
「何?」
「寧、これ持ってて」
手渡されたのは、白い布張りの小さな箱。
いつか見た覚えのある、綺麗なダイヤモンド…。
「これ、お母さんの指環」
「うん」
「どうして?」
「お棺の中に入れようかどうしようか迷ったんだけどね」
「うん」
「遥香さんて、押し付けられるのが嫌いな人だから」
「…そうだね」
「俺が天寿を全うしたら、その時に改めて渡しに行くから」
「うん」
「だから、それまで寧が預かってて」
私の父と母は、いわゆる事実婚というもので。
年の差なんかも大分あって。
でも、そんなことはカケラも感じさせないくらいに仲が良くて。
でも、どうしてだか母はプロポーズを断り続けて。
どうしてだか事故に遭ってしまい、もうこの世にいない。
「遥香さんの分まで長生きしなきゃね」
「うん」
「遥香さんの分まで、幸せにおなりね」
「うん」
大きな手が頭を撫でてくれる。
私は小さな箱を両手で大事に握りこんだ。
証になるものがなくたって…お母さんも充分幸せだったと思うよ?
答える代わりに、笑顔をひとつ。
ちゃんと通じたのか、私とよく似た笑顔がひとつ返ってくる。
私の手に指環が2つ。
宝物は、これからもどんどん増える予定。
-fin-
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