board meeting 009 2/6
一日か永遠かの違いはあるとはいえ、振られたことに変わりはない。ふてくされたままで休んでいるのもなんなので、仕事の前倒しでもするか――
そんな傷心の彼を思って、流石も少しセンチメンタルな気分になる。不憫なヤツ…しかし、仕事以外に暇つぶしはないのか? 所長職とはいえ、こいつってばそんなにワーカーホリックだったっけか?
ううむ――これでは人生に面白みというものがなくなってしまう→てことはイジケ虫→笑わない→筋力が引力に負ける→そして皺ばかり増えたマクシムは、足早にジジイへの階段を上ることに→コイツに顔以外でどんな取柄があると言うんだ…(酷いようだが真実だ)→哀れマクシム、俺はそんなお前が可哀想でならないよ――
脳内でのマクシミリアン考察会を終え、流石は一つの結論に達した。
――しょうがない。丁度今日は空いているし、俺が遊んでやるか!
そうと決まれば実行するのは簡単だ。
流石は、実に流石らしい行動に出た。
「マクシム」
「何だ」
相も変わらず不機嫌な声を発したマクシミリアンの顎を、指で引っ掴んで仰のかせる。
そこに覆いかぶさるようにこちらの顔を近づけて、抑えた声で、
「慰めてやろうか? 俺が」
――カラダで。
誘い文句を一つ。
沈黙がしばしの間。
危うい距離に、流石の胸が高鳴る。
――広報部っ、今だっシャッターチャンスだっ!
あぁっ、なんで俺は今ポニーテールなんだ!? 髪を結っていなければこのサラサラストレートがまるで帳(とばり)のようにこいつの顔に落ちるのにっ! それこそ読者の妄想爆裂、ウチのゴシップ誌の売上も倍増! 『ウワサの二人はやっぱりそういう関係だった…!?』とか何とか煽り文句にゃ事欠かないのにぃ〜〜!
…いや、落ち着け流石。今のままでも背後からパシャリと撮ったら『いかにも』な写真が撮れる! 決定的瞬間の捏造なんぞ簡単簡単。ふふフふ腐…。
思わずニヤリと不敵な笑みがこぼれる。そのままじりじりと迫るように距離を縮める。“今日は休日で広報部の神出鬼没パパラッチ軍団(仲間というか手下)はお休み”ということは、もはや悪ノリ大王と化した流石の脳裏から消え去っていた。
リミットまではあと5センチ――どうする? マクシム。
「お前が染色体XX(ダブルエックス)の女なら、考えてやらんこともない」
厭味ったらしいほど整った無表情がそう言った。
つまりは「“女性ではない生物”と染色体XYの自称“女”に用はない」という意味だ。
…………。
ソウデスカ。
「お前には茶目っ気というものがないのか…」
ノリツッコミくらいしてくれたっていいと思うのよ、俺は…。
顎を掴んでいた手から力が抜ける。
しょぼん。
もちろん誘いは本気ではない。だが、流石は急速冷凍冷蔵庫に入れられた合挽き肉のような気持ちになった。鮮度を保ったまま冷凍されて、おまけにそのまま包丁でサックリやられた気分だ。
対するマクシミリアンは、なんともあっさりと仕事に戻ろうとしている。
「茶目っ気だけで生きているお前じゃあるまいし」
忙しい。帰れ。
愛想の欠片も容赦もない追撃――に、引き下がる流石であるはずがなし。
「い〜や〜だ〜俺と遊びやがれ〜〜」
表情筋で微妙な上目遣いのジト目と八の字眉を作って、両足をバタバタ振れば「駄々っ子」の出来上がりだ。駄目押しに相手の白衣の袖を掴んでブンブン振ってやる。
今日はお前と遊んでやると決めたのだ。俺様の決意は超合金よりも固いのだ。
流石の目がキラリと光る。
一度喰らいついたら離さんよ? イヒヒヒヒ♪
「遊んで〜俺と遊んでマクシムぅ〜」
ブンブン攻撃、無視。
「遊んで〜遊んでくんなきゃ流石サン泣いちゃうぅ〜」
泣き落とし、更に無視。
「遊んで〜俺と遊べこの野郎〜オラァ〜」
声の調子と袖のブンブン具合がヒートアップするも、やっぱり無視。
「マ〜ク〜シ〜ム〜ってばぁ〜〜」
ゆさぶり攻撃も、ひたすら無視。
「なぁ〜〜マぁ〜〜クぅ〜〜シぃ〜〜ムぅぅ〜〜〜」
ブンブンを通り越して思わずクルリと一周、社交ダンスのようなターンがきまった。これでも無視か…?
「だぁっ! 離さんかこの馬鹿がっ!!」
否、キレた。立ち上がったマクシミリアンに腕を振り払われる。
「嫌だわマクシムったら、また眉間に皺が出来てるわよ?」
「お前の所為だ! お前の!」
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