board meeting 009 3/6




 しなを作る流石の頭を怒り心頭のマクシミリアンが殴る。げいんっ! っと痛い音が所長室に響いた。
「ぐっ…ドメスティック・バイオレンス!?」
 殴られた頭を抱えて流石が叫んだ。
 手をあげるなんて酷いわぁぁぁー! アナタとなんて離婚よぉぉぉー!
「ワタクシ実家に帰らせていただきます!!」
「あぁ帰れ帰れ!!」
 そもそも二人が結婚しているわけがないのだが、それはそれ。
 しくしくと嘘泣きの流石が、顔を覆った両手の隙間からマクシミリアンを見据えた。
 …そんなにじっくり睨むんなら、その手は必要ないのではなかろうか?
 恨めしそうな視線を一度伏せて、おもむろに流石は顔を上げた。
「なーんちゃって。帰るわけないだろ。たかがこんくらいの実力行使で俺が引き下がるとでも思ってんのか? 甘い、甘いぞマクシム!」
 わはははは! お前の鉄拳ごときにやられるほど俺様の石頭はヤワじゃないのだよ!
「……」
 勝利の雄叫びに、盛大な溜息を吐いてマクシミリアンが椅子に崩れ落ちた。流石はその悲壮感漂う肩をポンポンと叩いて、笑顔。
「俺様の勝ち〜♪」
 何をもって勝ちとするのかは置いといて、とりあえずこの場は流石優位になる模様。

「さてマクシム、今日は何かないのか? 怪しい新商品の臨床実験とか、新種の毒キノコ試食会とか、研究チームの抜き打ち視察とか、未知の生物探索隊とか、裏取引とか密輸とか密売とか、こう“血湧き肉踊り心フラメンコで金と欲望が渦巻く一大スペクタクル!”なイベントは?」
「あるかそんなもの」
「ないのか?」
「ない」
「嘘つけ。叩けばいくらでもホコリが出るだろうが、ウチは」
「…ないったら、ない」
「その間が怪しい…」
「私がないと言うんだからない!」
「ホントにー?」
「だからないと言ってるだろうが!!」
「ちぇーっ。あ、マクシム、あんまり叫ぶと血圧上がるよ?」
「一体誰の所為だと…」
 脱力しきりで机に突っ伏したマクシミリアンの後頭部をバシバシと叩く流石。普段所長としていくら偉ぶっていようと、傍若無人・我が道を行く俺様流石サマに敵うわけがなし。
「…て、なんにもなかったら暇じゃねぇか」
 はたと気が付いた流石が一瞬固まった。
 俺の日曜日ー! 楽しい日曜日の予定を返せー!
 完璧な八つ当たりを始めた流石に、マクシミリアンが訊く。
「…で、お前はなんでここにいる。今日は寧と遊びに行くんじゃなかったのか?」
「……」
 昨日の帰り際に流石が自慢げに、そして一方的に話していた内容によると、今日はそういう予定があったはずだが。
 ちなみに“寧”とは、流石の“目に入れても絶対に痛くない”一人娘の名前である。今年二十歳になる父似の美人なのだが――結婚はしていないが娘が居ることに対してはまぁ何と言うか、ふしだらの結果とかいう訳ではなくて家族計画的犯行であるのだが――
「流石?」
「うっ…」
「どうした、おい」
「お父さんフられました! うぇぇぇぇんっ」
 聴いてくれマクシム! 寧ったらなぁ、寧ったら、今日は俺とお買い物に行くはずが、お父さん置いてけぼりにして麗紅のヤツとデートに行きやがった! しかも俺様が買ってやったチョー可愛らしいワンピを着て! それがまた寧のためにあつらえたようなチョー可愛らしいワンピでそれ着た寧もチョー可愛らしいんだがなっ! どーすんだあんなに可愛い女の子を男と二人で出かけさせちゃって、もしかしてひょっとして寧の身になんかあったりしたら!? そんなっ、お父さん死んでも死にきれんじゃないか…!!
「親バカが」
 ムンクのポーズで嘆く流石をマクシミリアンが一言で斬って捨てた。
「うぇっ、うぇぇぇぇんっ」
「麗紅は信用が置ける男だろうが…あぁもうイイ歳した大人が泣くな! 鬱陶しい!」
 麗紅はマクシミリアン直属の部下である。ついでに言うなら広報部部長で柳さんちの次男坊で、冷静沈着頭脳明晰容姿端麗謹厳実直、未来の娘婿としての先行投資にはもってこいの人材だ。
「うぇぇぇぇん、マークーシームぅー」
 いつものこととは言え、いやだからこそ本気で鬱陶しいらしいマクシミリアンが、無言で流石の襟首を引っ掴んだ。身長なら流石の方がいくらか高いのだが、体格でいうならマクシミリアンに分がある。力で吊り下げられるカタチになった流石に、

「それで、お前は私に慰めて欲しいのか?」
 あ゙ぁ?

 血管の浮いた顔で、脅しに近い誘い(?)文句。
 至近距離で見据える目がイッてしまっている。
 先ほどとは立場がまるで逆の事態を前に、流石の動きがピタリと止まった。
 睨みつける目に強く真っ直ぐな眼差しを返して、艶やかともいえる笑顔が――




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