board meeting 009 5/6
別にいーもん。ひとりでいーもん。遊んでくれなくたっていーもん。
半分ヤケくそな低い呟きに、マクシミリアンが少し呆れた、少し気の抜けた表情で立ち上がる。
全くこの男は手のかかる…。
「寂しいなら寂しいって、素直に言え」
マクシミリアンがニヤリと笑う。
「…そんなことないやい」
「減らず口だな。なら何でお前は此処にいる」
「……」
ぷいっと目を逸らした流石を、マクシミリアンが苦笑で見つめた。
この男の「構ってやろうか?」は、つまり「構って欲しい」なのだ。自分が構って欲しいから相手にちょっかいをかける――それはまるで、好きな女の子を苛めてしまう少年のような、どこかもどかしい青さ。
どこかもどかしくて切ない、青さ。
「この馬鹿が」
「ウルセェよ、お前」
長年の付き合いを甘く見てはいけない。この男がこんな風に悪態をつくのは、拗ねて強がるのを隠すためだと知っている。
八方美人で交際範囲が広い割には、深い交流を許している相手は本当に少なくて。流石がこんな風に本音の部分を垣間見せる相手なんて、たかが知れている。
つい数年前から、その筆頭が、マクシミリアンに移ったというだけで。
「あー本当に馬鹿だよなお前」
わざと大きな溜息をついて、マクシミリアンはそっぽを向いたままの流石の頭に左手を伸ばした。
「まぁ、秋だから、人肌が恋しくったっていいんじゃないのか?」
流石がこの場にいる理由なんて、いちいち訊かずとも、すぐに思い当たるというものだ。
…ひとりで家にいるのは寂しい。
腕を伸ばして、引き寄せて。そのまま片手と片方の肩とを貸す。
「…ウルセェ」
なんだかんだ言いながら、流石は大人しくマクシミリアンの肩に頭をあずけた。全部見透かされてるのが悔しいんだが、しかも相手は余裕綽々のマクシミリアンで余計に悔しさが募るのだが、人肌の優しい熱には逆らえない。
肌寒くなった季節に、置いていかれるばかりの日々は少し辛い…。
君に、逢いたいな…。
声に出さない呟きは、白衣の肩に吸い込まれた。
「そう言えば昔、遥香さんに『マクシムとなら浮気しても許す』って言われたっけな…」
頭をマクシミリアンの肩にあずけたままの姿勢で、ふと流石がそう零した。
「ああ、言われたなそう言えば」
水無瀬遥香は、マクシミリアンにとっても親しみやすい姉のような、優しく温かい存在だった。
まだ自分達が二十歳を越えない前の話。今よりまだ少し無邪気でいた頃に見た、彼女の懐かしい膨れ面を思い出す。
――なんか悔しい、そういうの。
犬猫がじゃれあって遊ぶような、そんな友人同士の掛け合いにぽつりと零された一言。
その後に続いた溜息混じりの台詞に、ふたりして顎が外れるほど驚愕したのを覚えている。
――流石…マクシムとだったら浮気しても許すから。
「ありえねぇっての」
「当たり前だ阿呆」
誰からともなく微かに笑いが漏れた。お互い浮気するような性分ではないし、何より同性の親友相手にそういう気持ちになるはずがなし。
暫くそうして笑って、流石はマクシミリアンの肩から顔を上げた。
「…さんきゅ」
「ん」
マクシミリアンの手が、流石の頭をぽすぽすと叩いて離れる。
「浮気はありえないけどさ、でも俺お前のことも愛してるよ?」
「…男に言われても嬉しかないな」
「とか何とか言って嬉しそうじゃねぇかこのヤロ」
ぺしっ、と流石の手がマクシミリアンの頭をはたく。
「あー全くウチの弟は素直じゃなくてねぇ」
「兄貴も人のこと言えないだろうが」
「似た者兄弟?」
「そう」
家族っていいねぇ、と流石が笑う。血の繋がりは全くないけれど、俺達は間違いなく家族で、親友で。
出会う前は、お互いが歩んできた道は少し辛くて、挫けそうにもなったけれど。
今はこうやって、互いを支えて歩いて行ける。
「お前がいてくれて良かったよ、本当」
「もっと感謝しろ?」
「うわ恩着せがましい」
「ふん」
他愛無い会話が、今はとても優しくて、嬉しい。
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