board meeting 009 6/6




「流石」
「何だい?」
「お前、暇だろう」
 椅子に座りなおしたマクシミリアンが、パソコンを弄りながら声だけで問うのに、流石が不機嫌な声で返事をする。
「ああはい、暇ですよ? それが何か?」
 何だ、働くお前のために珈琲でも淹れろってか?
「秋だしな」
「…?」
「中庭に大分落ち葉が積もってきた」
「…うん」
「暇なら掃除しろ」
 …。
「お前ー! あの広いとこを俺一人で掃除しろってか!?」
 そりゃ酷過ぎるー! 鬼ー!! 悪魔ー!!
 抗議の声を無視してマクシミリアンが続ける。
「それが終わったら、裏庭農園の鳴門金時が丁度収穫時期でな…」
「今度は芋掘りか!?」
「…よくわかってるじゃないか」
 ニヤリ、とマクシミリアンが笑った。
「酷ッ…どっちも一人じゃできない重労働!!」
「それなら、食堂あたりに応援要請してやるから」
 ? 何故に食堂から人員を…?
「秋だからな、私は焼き芋が食べたい。いいな、焼き芋だぞ?」
 ちょっと涙目で突っかかっていた流石の目が、その一言でキラリと輝く。
 言わんとするところは多分間違いなく了解した!
「落ち葉焚き!? してもいいのか!?」
「燃料が足りないようなら、そこら辺から適当に入手しろ。と言うかお前のラボにいくらでもあるだろう」
「うわーうわー中庭でキャンプファイアー!!」
 焚き火ー! 焼き芋ー! ぃやっほい♪
「明日のおやつはスィートポテトな。ちゃんと仕込んどけよ?」
「ヨシキター!!」
 流石は満面笑顔で立ち上がった。
 イベント要請は確かに承った!
 焼き芋だろうが大学芋だろうがスィートポテトだろうがきんつばだろうが、何だって作ってあげようじゃないの!!
「私は仕事に戻る。後は頼んだぞ」
「任せとけ!」
 去り際に、一度だけハイタッチ。
 痛むほど力を込めてはたいた手のひらから、元気を貰ったような気がした。

 中庭に出たところで、ピンポンパンポ〜ン♪と所内放送が始まった。
『所長室より全ブロックへ。本日夕方、中庭において、突発イベント『焼き芋会』を行う。食べたい者は、裏庭農園の芋の収穫の手伝い、並びに中庭の落ち葉拾いに参加すること。尚、当イベントは中央区の御厨が指揮を執る。詳しくは御厨の指示に従うこと。繰り返す…』
 マクシミリアンの声が、風に乗る。
 以上、とその声が締めくくると、にわかに研究棟が騒がしくなった気がした。
「まったく、優しいんだからさ…」
 イベント好きなウチの所員が、所長直々の「ハメを外していいぞ指令」を聞き逃すはずはない。
 忙しくなるなぁ、と流石は頬を緩ませた。

 少し傾いてきた太陽を見上げて、一人思う。
 世界は愛に満ちている。
 少なくとも、俺の周りは。
 だからさ…あんまり心配しないでね?
 寂しいけど、寂しくない。一人でもやっていけるから。
 君がくれた愛を抱いて、次に逢える日までちゃんと歩いて行けるから。
 そんなことを思っていたら、風が柔らかく頬を撫でていった。過去に流した涙を拭い、労わるような――それはとても、覚えている手の優しさに似ていた。
 ほら、こんなにも世界は愛に満ちている。
 頑張れと背を押してくれるような、そんな秋の空にとびきりの笑顔を返して、流石はゆっくりと歩き出した。

「さてと、張り切っちゃいましょうかね?」

 原動力は、湧いて溢れるたくさんの気持ち。
 いつでも君を想っている。
 この想いは、まだずっと――恋の途中。

 -fin-


image song : 矢井田瞳 『Our life,like a LOVE SONG』 and CRAIG DAVID 『WORLD FILLED WITH LOVE』




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